世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】トニー・サルダナ「なぜ、DXは失敗するのか」

今年40冊目読了。コンサルティング会社のトランスフォーマット社代表取締役の筆者が、「破壊的な変革」を成功に導く5段階モデルを提唱する一冊。


DXという言葉は踊れど、全然実装されない・・・という疑問から手にしてみた。なるほど、これは勉強になる。


そもそも「デジタル技術は、労働者を退屈な仕事から解放し、より付加価値の高い仕事へと移行させる」ものである。が、「なぜDXが失敗するかという問いに対する驚くべき答えは、DXを軌道に乗せ、継続させる正しいステップを定義し、実行するための規律が欠けているから」は、確かにびっくりだ。


変革に際して留意すべき点を「産業革命の時代における変革には、既存のビジネスモデルにおけるイノベーションとは異なるゲームプランを必要とする」「真の変革には、長期にわたって競合企業の先を行くための能力を構築することが含まれなければならない」「永続的な変革を実現するための意外な答えは、離陸の際も飛行中も、規律を守ることだった」とまとめているあたりは秀逸。


筆者は、変革にいたるモデルを5段階で解説。
ステージ1:基礎。組織内のプロセスをデジタル技術で自動化するプログラムの実施
ステージ2:個別対応。変革に向けた部門単位でのプログラムの実施
ステージ3:部分連携。組織を横断する戦略的変革に向けた、部門間で連携されたプログラムの実施
ステージ4:全体連携。DXに向けた、組織全体でのデジタルプラットフォーム、製品、プロセスの導入
ステージ5:DNA化。ビジネスモデルの根幹となり、デジタル技術による改革を常に実施する、永続的な組織文化の定着


筆者が留意点としてあげる「DXの場合、デジタル技術が新しく、急速に進化しているため、リーダーはそれに特別な注意を払わなければならない」「組織に変化を受け入れさせる戦略を先に考え、そこから変化を設計すること。その逆をしてはならない」「ターゲットを絞ったアントレプレナーシップは、十分な変革プロジェクト(すなわち燃料)を生み出すことができる」「企業全体でのデジタルスキルの再教育は、企業の新しいデジタルバックボーンを運用するために必要となる、重要な人材を構築する」のあたりは、単なるデータ化とは一線を画するということがよくわかる。


そして、「どの段階の変革であろうと、DXからリスクを取り除くには、作業を小さい単位に分割してそれを繰り返すようにし、そこから学びを得ることが重要だ。それが致命的な失敗を避けるための原則である」「速度と反復実行は互いに補完し合い、DXの失敗のリスクを劇的に下げる」と、小さい失敗を第一人者が薦めているあたりからも、『失敗しちゃいけない』は手放す必要があるんだろうな。
「ステージ5のDXのためのアジャイル文化=顧客中心型のイノベーション+適応を促す環境+共通の目的」「顧客第一主義の文化は、顧客サービスを維持するために必要な変化を受け入れやすくする」のあたりは、変化の定着ということでは応用の幅がありそうだ。


破壊的変化が生まれる領域を「●新しいビジネスモデルの実現●新しいタイプのデジタル製品やサービスの開発●競争優位性のための業務プロセスの変革」とし、DXの形態を「まったく新しいビジネスモデル(例:物理的な店舗小売からオンラインへ)、テクノロジー主導の新製品(例:自動運転車)、デジタルオペレーション」の3つだとする。


筆者が最後に改めて述べる「DXが失敗する理由は、予想以上の規律を必要とするからだ。DXを成功させるには、十分すぎるほどの規律と、変革は成功するという前向きな姿勢が求められるのである」は、全く自分にはなかった視点だった。とても参考になる。