今年146冊目読了。ハーバード・ビジネススクール教授の筆者が、「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす、と説く一冊。
今、組織は大きな変革を求められている。それは「現代において成長を推進するのは、発想と創意あふれるアイデアだ。人々は知恵を出し、協力して、問題を解決したり、絶えず変化する仕事をやり遂げたりしなければならない。組織は、長く成功するために、価値創造の新たな方法を探し続けなければならない」「心理的安全性は、VUCA世界で高パフォーマンスを挙げるために不可欠なもの」という世の中の流れがあることを指摘する。
組織において気をつけなければならないのは「学習や協力をしなければ成功できない仕事なら、不安がやる気を引き出す要因になる事はない」「人々は職場で、意識的にも無意識にも、対人関係のリスクに絶えず対応している。そして、アイデアや疑問や懸念を率直に話し合うのを制限してしまっている」「口を閉ざす理由のトップ2は、悪印象を持たれることへの不安と、仕事上の人間関係が悪くなることへの不安」「多様性の多いチームは、メンバー間のモノの見方や価値観が異なるため、意見の衝突が起こりやすく、説得の難度も高まる。したがって、多様性のみではイノベーションの創発にたどり着きづらい」「かつて成功した、うまくいった仕事に甘んじては、模倣でしかない。革新的じゃない」のあたりを挙げる。
組織の陥る罠としては「回避できたはずの失敗を避けられなかったのは、あまりに無茶で、やりきるには嘘をつくほかない目標の達成を要求するシステムが原因」「詐欺と隠蔽は、返答として『ノー』も『無理です』も認めないトップダウンの文化でおのずと生まれる副産物」「権威を過信することは、心理的・身体的安全におけるリスク要因」「沈黙の文化は、すなわち危険な文化」とは、耳が痛い…
失敗について「不十分な点に関して早くに情報を出すと、将来起きるかもしれない大失敗の規模と影響を、およそ常に小さくできる」「失敗は、不安に思ったり避けようとしたりすののではなく、学習と冒険に必ずついてくるものだと理解する」「失敗できないことが本当の失敗である」と言及するあたりは、留意しておきたい。
では、どうあればよいのか。「『信頼』は個人が特定の対象者に抱く認知的・感情的態度であり、『心理的安全性』は集団の大多数が共有すると生まれる職場に対する態度」としたうえで、イノベーションに取り組むことを提唱。
イノベーションについての「イノベーションとは、様々な考え方、情報、技術を組み合わせて新しいパターンを見つける試行プロセス」「イノベーションを起こすためには、チームは失敗から学ぶ姿勢を持つ必要がある。この流れを作るためにも心理的安全性が欠かせない」「イノベーションの過程において失敗を多く経験することが重要であり、更にはなるべく早く経験すると学習につながりやすい」という言及と、それを受けての「組織階層の中間に位置する人物と一対一の信頼関係をつくることを通して、集団としての心理的安全性の変化に気づくきっかけを構造的に得ること」「心理的安全性を通して人間の弱さを見つめ直し、弱さに打ち勝つための本質的な努力を『組織改革』に向けるべきこと」という主張は非常に興味深い。
では、リーダーはどうあるべきか。「①気さくで話しやすい②自分が完ぺきではなくミスをする人間であることを認識している③スタッフが発言しやすいように意見を求める」「心理的安全性のために①土台をつくる②参加を求める③生産的に対応する」と提言するが、これ、本当に難しいぞ…
「現在の状況についての私たちの考え方や感じ方には、過去の経験がそれとなく影響をもたらしている。ところが、自分は現実─今そこにあるものごと─を見ていると思ってしまうのである」は、認知の罠だ。十分に留意したい。