世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

今年145冊目読了。切ない恋愛を軸としながら、現実と繋がりつつも現実離れした登場人物たちが繰り広げる珍事件の数々が織りなす恋愛ファンタジー


三谷宏治お薦めの本に入っていて、また、「太陽の塔」が良かったので読んでみた。が、自分にはやや合わない感じがするなぁ。これもまた、小説を読むということなんだろうな。


基本的に面白おかしい小説ではあるのだが、油断していると「自分にとっての幸せとは何か、それを問うことこそが前向きな悩み方だ。そしてそれをつねに問い続けるのさえ忘れなければ、人生は有意義なものになる」「考えると不思議ではないか。この世に生をうける前、我々は塵であった。死してまた塵に返る。人であるよりも塵であるほうが遥かに長い。では死んでいるのが普通であって、生きているのはわずかな例外にすぎない。ならばななにゆえ、死が怖いのか」「人生を論じるなど、ただの暇つぶしだ」のように人生の根源を揺さぶってくるようなコメントが出てきたりする。こういうのが、森見登美彦の上手さなんだよな。


肝心の恋愛の結末はネタバレ回避で書かないが、「恋に恋する乙女は可愛いこともあろう。だがしかし、恋に恋する男たちの、分け隔てない不気味さよ!」は、笑ってしまうとともに、「あぁ、昔、こうだったなぁ…」と哀しくなる。それはともかく、黒髪の乙女、とっても魅力的なんだが、実際にこんな人がいたらけっこうめんどくさいし、付き合ったらとんでもないことになるんだろうなぁ、と思う。まぁ、それが小説の面白さを増しているのも事実なのだが。


そして、本について、筆者が黒髪の乙女の口を借りて「我々は無意識のうちにホントの出会いを選んでいるのでしょうし、あるいは我々が偶然だと思っていても、それはたんに錯綜する因果の糸が見えないにすぎないのかもしれません。そう頭で分かっていても、本を巡る偶然に出くわした時、私は何か運命のようなものを感じてしまうのです。そして、私はそれを信じたい人間なのです」と述べているのは、本当に同意できる。