世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤井保文、尾原和啓「アフターデジタル」

今年34冊目読了。株式会社ビービッド東アジア営業責任者と、IT評論家の筆者が、オフラインのない時代に生き残るために、どう考え、行動したらいいかを提唱する一冊。


これを読むと、自分の「デジタルを活用する」という意識が圧倒的に時代遅れとなっていることをまざまざと見せつけられる…ダメージの大きい本だ。だが、そのぶん、読み込む価値がある。


日本の現状については「日本的な文化だと思うが、個別のサービスが『点』で終了して、『線』としてのつながりが弱いため、使い勝手が向上しない」「『デジタルによる社会システムのアップデート』は、単体事例の先進性を見ていてはわからない」とし、「日本企業は(中国の)サービスを単純に模倣するのではなく、『買い手と売り手にどんなメリットがあるの?』という姿勢から学び、ユーザーの生活や社会システムをどうアップデートするかという視点で考える必要がある」と指摘する。
そして、「『消費はモノからコトへ』と長く言われ続けているが、アフターデジタルにおいては『顧客体験』や『ジャーニー』という言葉を使った方が適切。多くの日本企業は商品の背景にあるブランドストーリーとして『コト』を提供し、実際、うまくいっている。この財産はアフターデジタルでも間違いなく活かせる」と提言する。


今は「オンラインがオフラインを侵食して溶け込み、ユーザーのあらゆる行動データが1つひとつ取得できる時代になったので、そのデータをフル活用してユーザー体験を高めていくビジネスモデルを構築できる」ため、「デジタルと行動データを駆使して最適なタイミングで最適なコミュニケーションを取れるようになり、全体的な営業工数や負担はむしろ減り、効率化される。これによって空いた時間は、より信頼を創るコミュニケーションに充てることで、ユーザー側にも企業側にもメリットがある仕組みになる」という指摘は、なるほど納得させられる。


また、今の時代を捉える認識として「『デジタライゼーション』の本質は、デジタルやオンラインを『付加価値』として活用するのではなく、『オフラインとオンラインの主従関係が逆転した世界』という視点転換にある」「今では、『リアルな場所や行動も常時オンラインに接続している環境』が整っているので、『オフラインが存在しない状態』を前提として、ビジネスをどう展開していくかを考える必要がある」「顧客はチャネルで考えず、その時一番便利な方法を選びたいだけ」と述べたうえで「リアルチャネルは『密にコミュニケーションを取れる貴重な接点』なので、リアルチャネルにはより高い体験価値や感情価値が求められ、十分に強みを発揮すべきポイントになる」


アフターデジタル時代の思考の悪例としては「①効率とテクノロジー中心の無人化②『オンラインを活用する』という逆Online-Merge-Offline③プロダクトを中心に据える」を挙げ、「店舗は物理的制限からスタートしているため、それをデジタルに持っていこうとすると、物理的制約をデジタル側に持ち込む。しかし本来デジタルは理想行動を作れるはずなので、デジタルを起点に考えるとより自由な発想ができる」とし、「OMO型で成功するビジネスの共通点として『ゲーム的にインセンティブ獲得が設計されている』」「日本で必要なのは、『エコシステム×OMO』」と述べる。


リアル店舗はどうなるのか、について「五感に訴え、360度全方位の体験を提供するようなある種テーマパーク化した店舗が増えている」「ソーシャルの時代は、人に教えたくなるような圧倒的な体験が”貨幣”になる。圧倒的な体験はほうっておいてもソーシャル上で流通し、流通している切り取られた情報に刺激された人は現地に出向き、現地で360度全方位、五感を刺激される体験ができればそれをソーシャルに投稿し、その投稿でさらにリアルへの訪問者が増えるというサイクルが起きる」「『無人化』というとどんどんサービスが機械化していく印象があるが、実際には従業員とよりコミュニケーションを取り、より人間的な温かいサービスを提供するプレイヤーが生き残っている」と指摘。
観点としては「①自動化・最適化。人間がわざわざやっていた『余計な作業』がなくなり、空き時間は『人』という貴重なリソースを使えるので、感動体験や密なコミュニケーションに充てることが可能になる②個別か。正しいタイミングで、正しい形で適切なサポートを提供できる。それが、ユーザーとのさらなるエンゲージメントを生み出し、付加価値となる」であり「商品を使うときや見かけたときに思い浮かぶバックストーリーではなく、ユーザーにその世界観の上に乗ってもらい、そこでいかに自発的にコミュニケーションや体験を創り出していくかが求められている」とする。


アフターデジタル時代のビジネス原理は「①高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回す②ターゲットだけでなく、最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーション形態で提供する」「単一接点型から、常時寄り添い型になる」。その状況において、組織構造は「体験寄り添い型のビジネスを提供するので、顧客の体験(=ジャーニー)に沿った組織構造になっていることが理想」であり、事業戦略は「『人・属性』ターゲティングから、『状況』に基づいたターゲティングに変えていく」とする。そして「アフターデジタルでは、なるべく高頻度で良い体験を提供することが優位なので、どうやってずっと顧客に寄り添うかが大切で、製品もただの接点の一つとして捉えるべき」と、視座の転換を薦める。
しかし、日本ではボトムアップのほうがうまくいくので、小さい事例をコツコツ積み上げるべき、として、その要点を「①経営レベルがアフターデジタルの世界観を理解し、OMO型でデジタルトランスフォーメーションを行う必要があると認識する②社長-役員-部長-現場で、同じイメージを共有して実行するラインを創る(デジタル部門などが対象になる事が多い) ③行動データ×エクスペリエンスのクイックウィン(小さい成功)を作り、上が引き立ててムーブメントにしていく④成功事例を大義名分に、組織構造やデータインフラを整える大きな動きにしていく」とまとめる。


UX(ユーザーエクスペリエンス)イノベーションの本質は「顧客の置かれた状況の発見と、それをより幸せにするようなコア体験をいかに作るか」であり、コア体験の要点は「体験の連続性、行動観察、デザインシンキング」だとする。そして「中国の得意な『体験』は、『便利、お得』に寄っている。これは接点頻度を重視しているため。一方で日本の得意な『体験』は、人による個別対応。拡大したテックタッチで得られた最適なタイミングで、ユーザーに対して日本らしい『人の手厚い個別対応や心遣い』を補うことができれば、私たちは『世界最高の良い体験』を提供できるようになる」と、勇気づける言葉を提示してくれる。


「見えない未来を楽しむためには『価値』=『違い』×『理解』」という言葉は、VUCA時代を生き延びるためには必須のマインドなんだろうな。とにかく圧倒されたが、非常に得るところの多い本であり、必読書ともいえるだろう。