世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】出口治明「歴史を活かす力」

今年115冊目読了。ライフネット生命保険創業者にして、立命館アジア太平洋大学学長の筆者が、歴史に学ぶ「人生に役立つ80のQ&A」を伝える一冊。


筆者は歴史に造詣が深く、「飯・風呂・寝る」から「人・旅・本」への転換を提唱しているだけあって、本当に面白い。図書館でかなり待ったが、借りられて本当によかった。


日本という国の過去と現在については「日本のプライマリーバランスを取り戻すには、消費税15パーセントで社会保障は現状維持か、消費税25%ほどで教育や医療は無償に近くするか。負担と給付はセットで考えるのが先進国の鉄則」「徳川幕府の最大の失政は、鎖国。『人間は交易によって豊かになる』という基本原則に反した政策は、思いっきり経済の足を引っ張った」「資源がない日本は、人こそが資源。これは白村江の戦いの頃から一貫している」「外国と交易を行うとめちゃ儲かる。『よっしゃ、ハイリスク・ハイリターンでいったるで』という気概を、古代から日本人は持っていた。そのチャレンジ精神とグローバル感覚は、いまの時代にも十分通用する」


世界の動きの原則についても、鋭い。「激しい内戦が起こるのは、明確な対立軸があるとき」「ローマ帝国も大元ウルスも、リーダーの失敗で滅びたのではなく、きっかけは地球の気候変動」「世界のスタンダードになる条件は、みんなにわかりやすく、使いやすくて、シンプル」「勝ち組も、いずれは新しい秘密兵器に敗れる。相手が腰を抜かすようなアイデアがないと、戦争もビジネスの戦況も一変できない」「現実を直視しない詩人タイプが国のトップに立つと、部下や国民は疲弊する。中国で言えば毛沢東、日本でいえば西郷隆盛が詩人の魂を持った永久革命家」「人口が増えた先進国は必ずといっていいほど栄えている。だからこそ、日本の人口減少は中長期的な国力を弱める大問題」などは、適切な分析といえる。


リーダー論も興味深い。「リーダーの仕事は、究極的にいえば、人々を幸福にすること。優れたビジョンは、社会の混乱を治め、人々の暮らしを豊かにする」「異質な文化で育った人の混成チームは強い。つまり、混ぜれば強くなる」「歴史の中で排外主義が勃興するのは、ほとんどの場合、指導者が愚かだということに尽きる」「どれだけタフでも、常に最終判断が要求されるリーダーが務まるのは、社会の変化が激しい現在なら10年~15年くらいが限界。それ以上は、頑張ろうにも頑張れない」などは納得だ。「長期政権は必ずといっていいほど腐敗を招く。誰かに権力が集中して一強状態になれば、イエスマンだらけになったり、忖度合戦になる」は、明らかに安倍・菅政権を意識した記述だな…


個別事象についても「日本もドイツももともとの地力に加え戦争が終わって人口が増え、地政学的にラッキーな位置にいたというのが、経済大国になった本当の理由」「江戸無血開城は何も平和主義に基づいたわけではなく、インフラ再建コストの問題画面。西郷も勝もきちんと算盤を弾くことができた有能なリーダー」「中国が共産主義とはいいながら、人々の宗教を放置しているのは、基本的には秦の始皇帝の時代から変わらない『一君万民』『中央集権』の国だから」「慎重にロジスティクスを整備し、情報のスピードを重視して、リーダーが先頭に立って戦う。ローマ軍が強かった理由はそのあたりにある」など、面白い。


コロナ禍で書かれているだけに「パンデミックが起こると、『神様、仏様お助けください』と信仰心がさらに深まる人たちと、逆に『神も仏もあるもの』と信仰心が薄まる人たちがそれぞれ増えて両極端になる」「神様がいなくなると、人間の興味は人間に向かう」あたり、非常に共感できる。


筆者が大量の読書とその価値観で感得した「歴史を学ぶことの意義の一つは、予期せぬ出来事に遭遇した時、適応するために参考にすること。歴史を多く知れば知るほど、最適解にたどり着くヒントになる」「長期的に見れば、人類は地球上を自由に移動し、自由な交易によって互いに不足するものを補い合って発展してきた。人類の歴史を知っていれば、本質的な観点から現在の出来事を把えることができる。それこそが、歴史を活かすこと」というまとめが、全てを物語る。この本は、さらりと読めて、興味を引くようにできているうえに深い。さすがの良書だ。