世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】石山恒貴「定年前と定年後の働き方」

今年5冊目読了。法政大学大学院政策創造研究科教授の筆者が、「シニアを一括りの集団とみなさず、個人の違いにこそ注目する。そうした思考法の違いによってこそ、シニアの幸福な働き方は実現していく」として、サードエイジを生きる思考を掘り下げていく一冊。


アラフィフのオッサンにとっては大事なテーマであり、かなり興味深く読んだ。一部理論武装が過ぎるところはあるが、大意は共感できる。


加齢のイメージにはまらないために、筆者は「シニアの能力は、一方的に衰えるものではない」「シニアの知能を高く保つコツは『抑うつに陥らないこと』と『経験への開放性』」と指摘。「生きがいとは生存充実感であり、困難なときでも意義や目的による人生の充実を追求できる状態」「幸福感は年齢でU字型カーブを描く」のあたりは、シニアの働き方のヒントとなる。


また、「短い時間展望は、シニアに影響をもたらす。自分にとって親密で、意義があると考える人々とだけ交流し、人生を生きる目的も、感情的により意義のあるものだけに絞り込む」という傾向を認識することの重要性を指摘。「自身の衰えを認めるのは簡単なことではない。しかし衰えを認め、だからこそうまく共存していこうとすれば、新しい境地もひらけるはず」とする。
筆者は、個人が主体的に職務を再創造することをジョブ・クラフティングと定義。特徴は「個人がボトムアップで主体的に、自分の情熱・動機・強みに沿った形で職務を再創造すること」とし「『自己の成長と専門性の追求』と『全体性』が結びつく時こそ、ジョブ・クラフティングがもっとも生じやすくなる」としている。その実践のためには「①現状の仕事を可視化する②自分の仕事上の情熱・動機・強みを洗い出す③自分の仕事の全体の枠組みを再構成する」が大切だと主張する。


具体的な働き方については「シニアが働くべきかどうかという問いには、各人がその価値観や信念に従って、自由に選択すれば良い」「シニアの働き方思考とは、役職にこだわらず、第一線の現場のひとりの」プレーヤーとして、専門性を向上させながら仕事を進める姿勢。くわえて、自分にとって意義ある目的と親密な人との交流を重視していく」「シニアにとっては、サードエイジをどう生きたいのか、それを心置きなく選択できることにこそ意義がある」と述べる。
ただ、留意しなければいけないのは「年齢・地位・役職の上下にこだわり、指示ばかりして現場の仕事に手足を動かさず、プライドが高くなっている状態だと、オンライン+リモート副業はうまくいかない」というところ。


越境学習の有効性について、筆者は「①アウェイで自分にとって意義ある目的を見つけやすくなる②アウェイの場で多世代かつ多様な人々と対話をすることによって、年齢・地位・役職の上下にこだわらないコミュニケーションができるようになる③アウェイで葛藤を経験し自己調整できる」とし、「越境学習で自走力(PEDAL行動)を醸成する。Proactive(まずやってみる)、Explore(仕事を意味づける)、Diversity(年下とうまくやる)、Associate(居場所をつくる)Learn(学びを活かす)」を提唱する。


上記以外に心に響いたのは「自分の人生を自分でコントロールできることが、健康にとって大事」ということと、江戸時代の儒学者である佐藤一斎の「少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り。壮にして学べば、即ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」のあたり。新書らしくさらりと読める良書と感じた。