世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小泉武夫「発酵食品と戦争」

今年111冊目読了。東京農業大学名誉教授の筆者が、発酵と戦争の意外な関係を掘り起こし、『発酵』の強靱さ、無限の可能性を解き明かす一冊。


大部分が戦時中の食糧統制の話で、タイトル倒れな感は否めない。ただ、さすが農学者だけあって、いくつか面白い記述も。


知っているようで知らなかったのは「納豆は、平安時代後期の前九年の役後三年の役源義家が兵糧不足に悩む中、たまたま煮大豆を敵の夜襲時に俵に詰め、馬の背にくくりつけて退却し、翌日に食べたらおいしかったことに始まる」「大本営の移転先は密かに松代と決められた。長野飛行場に近いこと、地盤が強くて山に囲まれていること、信州が神州に通じることから。そこで終戦までに物資が蓄えられ、終戦後に大豆がたくさん出てきたことから、味噌を仕込んで東京に出荷し、信州味噌の評判が上がった」「日本人の基本的食態『一汁一菜』の『一汁』とは飯と汁、『菜』は副食のことで、これは戦国時代から決まっていた。必ず香の物、すなわち漬物だった」「茶漬けと湯漬けは歴史的に異なり、湯漬けは平安時代の書物にその供し方が論じられているのに対し、茶漬けは江戸時代中期ごろからの食べ物。湯漬けで必ずと言ってよいほど飯の上に置かれるのは漬物」「幕末、江戸警備を命ぜられた江川太郎左衛門は、戦時食としてパンに目をつけた。パンなら軽くて持ち運びがしやすく、ご飯と違って火をたかなくても直ぐに食べることができるからである。戦場で火をおこして煙を出せば、敵に居場所を知らせてしまうので御法度だった」のあたり。これは興味深かった。


発酵というと食べ物のイメージだが、「人間の小便を原料にそれを発酵させて爆薬をつくっていた。五箇山で塩硝づくりが行われたのは、あまりに山の中で、外部からほとんど人が来れないところだったため、火薬作りの方法が外部に漏れないから」「日本軍はタロイモを発酵させて南方諸島で飛行機を飛ばした」「日本では、第二次世界大戦中に海藻を発酵させて軍需用品の沃素をつくった」のあたりも面白い。


筆者の眼から見ると「第一次および第二次世界大戦の期間は、グリセリンの大量発酵生産から始まり、ペニシリンの大量発酵生産に至る、大量培養のための基礎を確立した重要な期間」と認識されるのもなかなかびっくりだ。


部分的には面白いが、あまりタイトルと中身が一致しないかな…無理がある気がする。