世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤浪匠「なぜ少子化は止められないのか」

今年76冊目読了。日本総合研究所調査部上席主任研究員の筆者が、日本の少子化の原因をデータで掘り下げる一冊。


分かりやすさを狙った会話形式の記述が、逆に迂遠さを感じさせるのが面倒だが、中身はしっかりしている。思い込みの常識を覆す話もあり、なかなかな読み応え。


データで衝撃的だったのは「日本の出生数は、2000年から15年かけて20万人減少し100万人となっていたが、それ以降はわずか7年で20万人以上減少してしまった。理由は、有配偶者出生率の低下」「18歳〜19歳の9割近い人がいつかは結婚したいと考えている。LGBTQや生涯未婚などのライフスタイルが定着しつつあるとはいえ、まだまだ大半の人は結婚願望を持っている」「この10年くらいの間に、一般的な印象とは逆に、子どもを1人生んだ女性に占める3人味の子を生む割合が高まる一方で、そもそも第一子にたどり着かない女性が増えてきた」のあたり。やはり事実に向き合わないとイメージでは見えない部分が多いな…


そもそも、子どもの人数については「子どもを生むかどうかというのは、その時々の若い世代を取り巻く経済の状況が強く影響してきた」と述べる。
そのうえで「大学を出て、奨学金を返済しながら自己研鑽や資格取得に励み、それでも成果主義ということで、大半の人は給料が上がらない。みな今日、明日、せいぜい1年先までのことで頭がいっぱい」「現代の日本が、結婚して家族をつくり、子どもを育てていこうという若い世代のごく当たり前の希望が、経済や雇用の問題によってかなえられない国になっている」と、まさに今の日本を取り巻く認識が少子化を招いている、と言及している。
しかも「女性や高齢者、さらには外国人のおかげで、日本の就業者人口は減っていないが、そろそろ限界。女性の労働力人口比率はすでにアメリカやフランスを上回っていることから、今後もこれまでと同じくペースで女性の就業者数が増えていく見込みは薄い」と、まさに現状待ったなし。正しい処方箋を打たないと話にならない。


では、どうすべきか。筆者は「若い人が減らない2030年までを最後の好機と考え、少子化対策に真摯に向き合っていくことが必要」「社会保障的な支援だけでは少子化を食い止めることは難しく、並行して賃金を引き上げ、雇用環境を改善する取り組みが欠かせない」「少し遠回りではあるものの、結婚を後押しする上で重要となるのは、雇用の質の向上や賃金の引き上げ」と述べる。確かに、「現金給付は多いに越したことはないけど、その財源確保のために増税社会保険料の引き上げを安易に行えば、景気の下押しにつながる可能性がある」という指摘も含め、非常に冷静かつ的確だと感じる。


だが、その障壁になるのは「人口減少への備えとして、DXは不可欠な要素であるにもかかわらず、その社会実装に遅れが目立つだけでなく、社会を変えられない高齢社会の悪い面が足を引っ張って、DXに必要な人材が不足している」という事実。
社会の認識自体が「人手不足が社会の変革を生む。人手不足という現実から目を背け、安い労働力の獲得に逃げたり、漫然とこれまでの延長線上の社会のあり方を追い求めたりしていてはダメ」「育休中のリスキリングを支援するというよりも、そうした選択が可能なよう、社会が親をサポートする」「育休期間は、夫婦に子どもとの新しい暮らしを楽しみつつ、人生をリセットする時間的余裕を与えるよう、保育サービスの提供の仕方を見直すことが必要であり、それこそが少子化対策として望ましい子育て支援のあり方」となっていかないと(もっといえば、現代の社会を形作ってきた老齢層や中堅層がこの認識を形成しないと)難しいんだろうな…


この本を通じて筆者が述べる「そもそも若い世代が上の世代に比べて貧しくなっているというのは、道義的な面からみても日本社会の大きな問題。本来こんなことはあっちゃいけないし、少子化当然の帰結。次の世代は、少しずつでもいいから前世代よりも豊かになっていく、これが人間社会のあるべき姿」の哲学には本当に同意。まず、この認識の共有からではなかろうか?と感じる。


新書だが、読み応え十分。非常にわかりやすく、良書だと感じた