世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

『読了】田中辰雄、浜屋敏「ネットは社会を分断しない」

今年115冊目読了。慶応義塾大学経済学部教授と、富士通総研・経済研究所の研究主幹である2人が、ネット上の議論の実態を計量分析で掘り下げていく一冊。


佐渡島庸平が本で紹介していたので、タイトル的にも気になって読んでみた。統計的手法をかなり使っているので慣れていないと読みづらいが、中身と主張はなるほど納得だ。


分断がなぜ悪いのか。「分極化すると極端な意見が多くなるので相互理解は困難となり、罵倒し合う事例が増えてくる」としたうえで「個人レベルではなく、社会全体として見た時、分極化が進み過ぎることは民主主義にとって問題を生む。第一に、分極化が進んで意見の相違が大きくなると、議論して知恵を出し政策案を改善していくという努力が放棄されてくる。第二に、意見の相違があまりに大きくなり、相手の言うことが理解できなくなると、人は民主的意思決定事態に疑念を持ちはじめる」と、それが民主主義を揺るがすからだと主張。


なぜネットが問題となるのか。「分断のネット原因説は、選択的接触(ニュースの需要側の要因)とパーソナルメディア化(ニュースの供給側の要因)に大別される」としたうえで「同じネット利用と言っても、ヤフーなど大手ネットニュース利用者は分極化しておらず、分断されていない。分極化が起こっているのはフェイスブックツイッター、ブログといったネットメディア」「テレビ・新聞とソーシャルメディアで選択的接触は同じようなもの。ただ、テレビ・新聞ではメディアの数が少ないために、選択的接触がやや強い」と指摘。


筆者たちは、データから「分極化しているのはネットを使う若年層ではなく、ネットを使わない中高年」ということを読み解き「①ネットメディア利用開始で人々は過激化せず、穏健化する傾向にある②穏健化するのは20代~30代の人がブログを使い始めた時、女性がブログを使い始めた時、元々穏健だった人がツイッターを使い始めた時③過激化するのは、元々過激だった人がツイッターを使い始めた時」という結論を導く。
どうも、体感と違うような気がするのは「一部の現象が誇張されて見えるネットの特性」によるとし「ネットを使っている人の意見が分極化している事実はないが、一部の極端な意見の人の発言が拡大され、大勢であるかのように見えてしまう。これがため、ネットは罵倒と中傷の場になってしまう」と、からくりを説明する。


実態としては「ネット草創期の人々は、ネットの上で多様な意見や智恵の興隆が起こり、互いの理解が進むことを期待した。その期待は、まさに若年層を中心に実現しつつある。時間の経過とともに若年層が社会の大勢を占めていくのであるから、長期的にはネットの良い面が広がっていくことになる」と述べるところは、かなり驚いた。


現状と今後についての「ネットで接する相手の4割は自分と反対の意見の人であり、人々は自分と異なる意見にも耳を傾けている。その結果、ネットを使う若年層ほど穏健化しており、分極化していない。これは民主主義にとって良い変化である」「両端の意見だけでなく、中間の穏健派の意見を代表するソーシャルメディアが現れれば問題はかなり解決する。すなわち、分布の中間の人々の言論空間をつくることが最大の対策になる」という提言は、意外だがなるほどと感じさせられた。


意外な結論を納得させるにはデータが必要。だが、その読み解きが少ししんどい。そんな感じの本だ。