世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

[読了】奥田祥子「男が心配」

今年114冊目読了。ジャーナリストにして近畿大学教授の筆者が、男性たちが人生の節目で直面する問題を取り上げ、理不尽ともいえる現実を明らかにする一冊。


2022年にオッサンと呼ばれる世代にとっては、これは本当によくわかる。逆に、女性が指摘してくれないと、こういうことにすら気付けなかったかもしれない。筆者が実際に取材している男性たちには、実に共感できる。


なぜ、男が心配なのか。「『男らしさ』には、ほぼ同義の『男性性』(男性の特徴・特性)の意味に加え、性別によって『こうあるべき』という規範的な要素が含まれている」という点に触れたうえで「最も深刻なのは、『男らしさ』規範を実現できていない男性たちが現実から目を背け、モテないことを認めようとしない点にある。『男はモテなければならない』という『男らしさ』の固定観念にいまだ囚われているがゆえに、モテないことは男としての敗北を意味するからだ」「モテ信奉がエスカレートして『モテる男になれない』自己嫌悪として跳ね返る気持ちが逆に、頑張っても実現できない『男らしさ』への執着を招いている」と、その自己撞着ぶりが自らを苦しめている、ということを指摘する。


さらに、イクメンや介護もやるべきと言われていることによって「長時間労働が実質的に是正されず、パタハラも横行する現状で、『イクメン』が新たな男性像として称賛されればされるほど、その理想の父親像を具現化できない多数派の男たちは苦悩を深めている」「『男も介護して当たり前』といった世間のプレッシャーを感じ、『他人を頼る弱々しい男と思われたくない』という思いで意固地になる」と男が追い詰められている点に言及。
その結果「『デキる男』であらねばならないという『男らしさ』の呪縛は、デキる男の実現可能性が低くなればなるほど、逆に強くなっている」「男たちは『負け』を認めることができない。『男らしさ』から逸脱した"落伍者"の烙印を押されることを極度に恐れ、目の前の現実を受け止めることができないまま、つらさを背負い、立ちすくむ」「深刻な問題は、生きづらさを抱えてもなお、自ら『男らしさ』を志向している点にある。その背景には、女性たちや、少数派の『男らしさ』を実現している男性たち、そして社会全体からの要請、プレッシャーが根強い」「男性の生きづらさを考えるうえで、男性間に支配構造があり、『支配される男性』がいることを看過してはならない」となる、というのはまさに然り。


では、どうすればよいのか。「定年後の現実は、思い描いた理想通りにいくものではない。それにもかかわらず、男としてこうあらねばならないたいうジェンダー規範と決別できないがゆえに、なおいっそう己を追い込んでしまう」「仕事一筋で出世を目指して全速力で突っ走った定年までの働き方、生き方からのギアチェンジが必要」という事実に向き合うことを筆者は提唱。
そのうえで、打開のために「他者や社会からの評価に惑わされず、自分のものさしで自己評価し、ありのままの自分を受容する。つまり自己承認しつつ、少しずつでも自信をつけていくことが、『男らしさ』からの解放につながる」「自己の一貫性に固執せず、多元的な自分を認めることが重要だ。一貫した『男らしさ』を備えていなくてもよいのと同時に、『男らしさ』の要素すべてを捨て去る必要もない」と答えているのは、立ちすくんでいる男性たちに寄り添う発言だ、と感じる。


取材に対応した男性たちの「たったひとつの父親像に執着きていたことは大いに反省しています」「誰にだって弱さはあるんだから、人を頼っていいのだと考えを改めないと、いつまで経っても心身ともに楽になれない」というコメントが胸を衝く。


女性にも読んでほしいし、男性が「心の荷を下ろす」助けにもなる本だと感じる。