世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】小島慶子「おっさん社会が生きづらい」

今年1冊目読了。TBSアナウンサーからエッセイスト、タレントになった筆者が、5人の識者との対談を通じて日本社会の生きづらさの原因”おっさん社会”を見つめ、脱却の道筋を模索する一冊。


読書会で知遇を得た畏友が薦めていたので読んでみたら、なるほど、自分としては組織変革元年である状況に合致して、非常に危機感を覚える…


筆者は、おっさんを「独善的で想像力に欠け、コミュニケーションが一方的で、ハラスメントや差別に加担していることに無自覚な人々」、おっさん性を「強弱の違いはあれ人間が標準装備している性質の一つであり、社会的に学習・強化されるもの」と定義する。そのうえで「”おっさん性”は人を壊す。その人自身を壊し、周囲の人を壊す。人が心を殺さねば生き延びられない”おっさん社会”から、私たちは抜け出すことができるのだろうか」という本書の根本疑問を呈する。


恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之氏との対談で気になったのは「地位や権力を持つと、何者でもなかった頃よりいろんなことがやりやすくなる。そうやって障害物というか、自分への向かい風が減っていくと、内省する機会もなくなっていく」「お見積りの自分と現実の自分との乖離を正当化のロジックで埋めていくというのは、ある種の男性あるある」「男性が内包する”おっさんなるもの”の源には、永遠の性的強者であれという呪いが関与していそうだ」のあたり。


関西大学文学部教授の多賀太氏との対談で気になったのは「『男のレールに乗っている』人たちは、自分がどうしたいというよりも『どうするべきだ』『どうあるべきだ』を先に考えてしまう。そして、『自分は男としての務めを果たそうとしているのに、なぜ理解してもらえないのか?』と悩む」「苦悩や不安を言語化して分かち合うことを習慣づけられてこなかった男性たちは、それを暴力に代えやすい。暴力の矛先は女性など自分より弱い他人に向かう。それが自分自身に向かうこともある。弱くあってはならない、勝ち続けなくてはならない、という男性の呪縛は誰も幸せにしない」のあたり。


東京大学先端科学技術研究センター教授の熊谷普一郎氏との対談で気になったのは「自分も他社も環境も搾取して、理想を変えようとしないマインドが”おっさん性”」「現実とすり合わせた結果、理想や目標をアップデートする『探索戦略』は、ある程度の気持ちの余裕と知性が必要」「加害者が加害者であることを認めるには、まず自分が被害者性を持っていることを認めることが第一歩。それと向き合ってからでないと、自分の加害行為を認めることができない」のあたり。


作家の平野啓一郎氏との対談で気になったのは「忠臣蔵のように、『ギリギリまで耐え忍んだのなら、最後はキレても仕方ない』といった価値観が、日本にはある。本当は、堪忍袋の緒が切れる前に、周りも助けてやるべきだし、本人も話し合う術を模索すべき」「誰の中にもある『おっさん性』は、中長期的な視野の欠落や視野狭窄。思考することを放棄している。社会正義なんて青臭いを嘲笑するのも、現実を直視することへの不安の表れ」「女性差別を撤廃することは最優先課題だが、その動きを加速するためにも『女性も男性も弱音を吐けず、苦しんでいる。どんな人も人間らしく生きられる社会はどのようなものか』と考えることが大事」のあたり。


東京大学名誉教授の上野千鶴子氏との対談で気になったのは「長時間労働が当たり前の男尊女卑社会って結局、男性も人間扱いされていないから、人権が何かもわからない」「女性差別をなくすには、そういう働き方で怨みを溜めて被害者意識を募らせている男性がまず『こんな社会はしんどい』と認めることが必要」のあたり。


では、どうすればよいか。処方箋になるな、と思ったのは「重要になってくるのが『人の話をちゃんと聞く』ということ」「自分を知ろうとすることや、それを言葉にしようとすることは、弱さを認める強さを育てる。他者への想像力を育み、痛みを分かち合うことができるようになる」「おっさんをアップデートする3つの視点は、①シェア:様々な労働を男女で分かち合う②ケア:他人や女性をケアする、自分自身をケアする③フェア:対等な関係」「内なる”おっさん性”及びそれを補強する振る舞いから、自他を解放するために必要なのは『傷ついている自分を認めること』『愚痴をこぼすこと』『責任を取り続けること』」「役割を通じて人と対面せず、いつもどんなシチュエーションでも相手を一人の人間として見られれば、卑屈になったり横柄になったりすることもない」のあたり。


新書とは思えない議論の多彩さと深みになかなか圧倒される。アラフィフ男性としては、相当耳が痛いが、読んだ甲斐がある。そして、平野啓一郎の「『知的になることで傷つかない』。本などをたくさん読んで知的な人間になっていくと、なぜ相手はこういうことを言うのかとか、自分がどういう環境で生まれてどういう人達に囲まれて、どういうふうに人から思われているのか、ということが段々と構造的に見えてきて、理由がわかってくる。そうすると、何か言われたときも、ムカつきこそすれ、傷つくことは減っていく」が圧巻。ホントに、読むべき本だ。