世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ロバート・B・チャルディーニ「影響力の武器」

今年75冊目読了。アリゾナ州立大学教授にして、米国を代表する社会心理学者が、なぜ、人は動かされるのかについてメカニズムを明かしていく一冊。


三者的視点で見ると「なるほど」と思うが、当事者になるとついついその「罠」にはまっていることをリアルに教えてくれる。何より筆者自身が実際にセールスマン・募金活動員・広告マンなど、実務に3年ほど潜り込んで活動をした、という事実が圧倒的である。


筆者は「人間の行動をつかさどる基本的な原則『返報性』『一貫性』『社会的証明』『好意』『権威』『希少性』が、社会において自動的な影響として機能する」と述べる。人間を含めた動物は、刺激に対して自動的な固定的動作パターンを取るようになっており、「私たちの生活に降りかかる刺激がますます複雑さと多様さを増しているため、思考の近道にもっと頼る以外には対処のしようがない」と断言。現代社会の刺激の多さが、コントロールのされやすさを増していることを指摘している。しかも「人びとがコントロールされたやり方で、すなわちよく考えたうえで反応するのは、そうする欲求とともに能力を併せ持っているときだけ」なので、なおのことリスクは大きくなる。さらに「私たちは、二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のものと異なっていると考えてしまう傾向がある」ので、さらに難しい。


『返報性』については「相手が見知らぬ人や嫌いな人でも、最初から親切な行為をされてしまうと、一つくらいなら要求に応じてもいいやという気になってしまう」「私たちの心が、余計なお世話をされた場合でも、恩義の感情が生まれるように出来ている」「心のなかの不快感と外聞が悪くなる可能性、この2つが組み合わされると、とても大きな心理的負担が生まれる」「譲歩には、取り決めに対するより大きな責任感と、より強い満足感がある」と警告。「最初の親切や譲歩は誠意をもって受け入れ、後で計略だとわかった時点で、それを計略だと再定義できるようにしておく」と忠告する。


『一貫性』については「自分がすでにしてしまったことと一貫していたいという欲求がある」「盲目的な一貫性は、複雑な現代生活を営む上で思考の近道を提供してくれ、考えた結果が不快だからという理由で考えるのを避けてしまう」「人は自分が外部からの強い圧力なしに、ある行為をする選択を行ったと考えるときに、その行為の責任が自分にあると認めるようになる」と警告。「ささやかな依頼に応じる場合にも十分に注意する」「もう一度同じ選択をするだろうか、と自らに問いかける」「身体のなかの胃と、心の奥底から送られる合図に耳を澄ます」と忠告する。


『社会的証明』については「特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断する」「どんな考えでも、それを正しいと思う人が多ければ多いほど、人はその考えを正しいとみることになる」「不確かさと、類似性がある時に、社会的証明は最も強い影響力を持つ」と警告。「緊急事態に陥った時に、人数が多いから助かる、と考えるのは、多くの場合、完全な誤りである」「類似した他者が行っている明らかに偽りの証拠に敏感であること、自分の行動を決定する際には類似した他者の行動だけを決定の基礎にしない」と忠告する。


『好意』については「好意をもっている相手からの頼みには、イエスと言わせる圧力がある」「悪い出来事や良い出来事とただ関連があるだけで、私たちは人々に良くも悪くも思われてしまう」「好意の要因は、身体的影響、類似性、接触を繰り返したことによる馴染みがある」と警告。「承諾を引き出そうとしてくる相手に対して過度の好意をもっていないかに特に敏感になる」と忠告する。


『権威』については「権威者が多くの知識を持っており、私たちの賞罰を決められることを、人生の早い時期に学習させられる」「権威のシンボルは、肩書、服装、装飾品」と警告。「この権威者は本当に専門家か、この専門家はどの程度誠実か、という2つの問いが大事」と忠告する。


『希少性』については「手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてくる。それは、機会と自由を失うから」「ほかでは手に入らない情報だと思うだけで、その情報により説得力があると考えるようになる」「少ない資源を求めて競争しているという感覚は、人びとを強力に動機づける」と警告。「興奮の高まりを合図にする。いったん血が上ってしまったなら、まず興奮を鎮め、次になぜそれが欲しいのかという観点からその機会の利点を評価する」と忠告する。


 一つ一つはわかりやすく、頭では「そりゃそうだろう」と思うのだが、それが実際の場面ではあっという間に影響を受けてしまうところがこの本の怖いところ。「人は、書かれた意見は書いた人の本心を反映しているとみなす」「革命の担い手となりやすいのは、よりよい生活の味をいささかなりとも経験した人々」「情報が多すぎて何も決められない状態に陥ると、私たちはその状況のなかにある単一の、たいていは信頼できる特徴に注目する」のあたりも、非常に面白いが、自分もその一員であると考えると、安穏とはしていられない。


「承諾を引き出すきっかけが、状況にもともと備わっていたわけではなく、捏造されていた場合にのみ、それは不正なものとなる。私たちが思考の近道によって得られる利益を失わずにいるためには、あらゆる適切な手段を使って、そのようなインチキに対抗することが重要」との筆者の主張は非常に納得できるが、実際にそこに至るのがとんでもなく大変なわけで…これは、かなりぶ厚いが、読みやすいので必読の一冊だ。