世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】末永幸歩「13歳からのアート思考」

今年74冊目読了。東京学芸大学個人研究員にしてアーティスト、美術教師の著者が、「自分だけの答えが見つかるアート思考」について言及する一冊。


アートに関する勘違いとして「自分なりのものの見方・考え方とはほど遠いところで、物事の表面だけを撫でて分かった気になり、大事なことを素通りしてしまっている」「私たちは、自分だけのものの見方・考え方を喪失していることに気づいてすらいない」としたうえで「世界が変化するたびに、その都度新たな正解を見つけていくのは、もはや不可能ですし、無意味でもある」


古典的アートの崩壊のポイントとして「カメラの登場により、目に映るとおりに世界を描く、というルネサンス以降のゴールが崩れてしまった」と指摘。「20世紀以降のアーティストたちは、写真にできないこと、アートにしかできないことはなんだろうか?という問いを立てて、自分たちの好奇心の赴くままに、これまでになかった探求をはじめた」と述べる。


アートの見方については「自分のものの見方を持てる人こそが、結果を出したり、幸せを手にしたりしている」としたうえで「作品を見て、気が付いたことや感じたことを声に出したり、紙に書きだしたりしてアウトプットすればよい」「数学の答えは変わらないことに価値があるが、アートの答えはむしろ変わることにこそ意味がある」「作品はアーティストだけによってつくられるものではない。見る人による解釈が、作品を新しい世界に広げてくれる」と切り出す。「感じた意見に対しては発見した事実を、そして逆に、事実に対しては意見をアウトプットする」という見方で、自分なりの考えを提言することを推奨する。


そして、「インターネットの誕生によって、世界の多様性を受け入れざるを得なくなった結果、正解など存在しないことが自明になってしまった」状況において、「作品の背景は、本来、鑑賞者にさまざまな問いを投げかけているはず」と提起。「アート思考は、自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること」とし、「心から満たされるためのたった一つの方法は、自分が愛することを見つけ出し、それを追い求め続けること」と述べる。これは、かなり普遍的な価値観だと思う。


「私たちのほとんどが、遠近法こそが、リアルな絵を描くための唯一無二の方法だと信じ切っている」「遠近法で描かれた絵は、つねに半分のリアルしか映し出さない」のあたりの指摘は、実に興味深い。圧倒的な読みやすさと、それでいて深い洞察。美術嫌いの人間こそ、これは読むべき一冊だと感じる。