世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ケルビー・バード「場から未来を描き出す」

今年74冊目読了。アーティストでありスクライビングの実践者である筆者が、対話を育むスクライビングの5つの実践について書き記した一冊。


自身が傾注しているU理論と、それのグラフィックファシリテーションのような本かな、と思ったが、筆者はスクライビングについて「場を起点に手を動かし、機能させることで、集合的な知識、つまり、そのシステムや場にいる人々が感じ取った感覚を表現するアート」「生成的なスクライビングの目的は、要約や綺麗な絵を描くことではない。場にいる人々をつなぎ、新たな洞察やビジョンを生み出す後押しをすること」と述べ「スクライビングは、人々が場で起きていることの意味づけを強く願って初めて本来の力を発揮する」とする。自分は体感的に何となくわかるような気がするが、一般的には「スクライブは、共に観ること、人が進む方向を見い出すことを、アートという形で補助する」という表現がわかりやすいように感じる。


スクライビングの5つの領域とは「在る、融合する、捉える、知る、描く」だとするが、正直、これだけでは何のことやらサッパリわからない。だが、感情を扱うに際し「『悲しみ』は『融合する』こと、『恐れ』は『捉える』こと、『怒り』は『知る』こと、そして『喜び』は『描く』ことにつながる入口」と言われると、なんとなく見えてくるような気がする。
では、在る、って何?というところだが「私は描き始める前に、ほんの一時─数分間の場合もあるが─よく立ち止まる。自分が静まり、自分が『在る』状態になるのを待つため。このように『待つ』のは何のためか、と聞かれることがある。それは、意識から雑念を払うためでもあるし、源を感じるためでもある」と、やや禅宗に近いような感覚を答えとして提示する。瞑想も最近はよく取り上げられるし、その手法は正鵠を射ている、ということなんだろうな。


人生においては、在り方がよく問われると感じる。それに対しては「内側に意識を向けると、そこには純真な場所がある。新しく繊細で守られた場所、私的で安全で自然のままの場所。それこそが大切なもの、放たれるエネルギーの源」「『できない』は赤信号のようなもの。自分の頭の中で青信号に変わるまで、一時的に止まるための信号。そしてきっと、ひとつひとつの『できない』は、実は手の込んだ贈り物。それを受け取って初めて、現在のマインドセットを『もし、やってみたらどうなる?』へと、リフレームできる」というあたりにもなるほどと感じるが、端的なのは「私たちは模倣によって学習し、統合によって進歩する。そして、自らの源に触れることによって、熟達する」という表現。自分は熟達できているか?と考えると、とても恥ずかしくなる…


融合する、という段階において気になった記述は「私たちがより深い人間性を呼び起こすとき、境界線は消えてなくなる」「悲しみは私たちを人生のニュアンスにつないでくれる。悲しみは、活動の色が現れる前の灰色の小休止」「何を受容するかと、知覚がどれだけ鋭敏になっているかは、相互に関係している。そして、それによって選択やアウトプットも決まる」のあたり。


捉える、という段階においては「『観る』とは、システムのパターンやダイナミクスをあきらかにし、レバレッジ・ポイントを見つけ、より良い結果に転換するために、そのシステムの考え方や構造、行動を認識しようとする過程」「大事なのは集中すること。注目し、注意を怠らない事。そして、探求すること」「恐れは、知覚への鍵であり、選択に至る道の途中にあるもの」「はっきりわからないときは、立ち止まろう。ペースを落とそう」「人は、1つの推測を緩めることで、直ちに解釈と洞察への窓を開くことができる」「人や集団の時間の捉え方を理解することにより、私たちは話の展開をより適切に追い、フレーミングすることができる」あたりが心に響く。


知る、という段階に関しては「信頼という筋肉を作るために。●『焦りを手放す』もっと周りを気にかける。スピードを落として、ゆっくり進む。深呼吸する。忍耐力を強める。●『源』これが土台だと知っておく。源にアクセスし、そこにとどまる。●『器になる』認識できるものすべてを包み込む。広がる、ホールドする。●『スケール』その瞬間を大局的に捉える。この描写は、大海の一滴にすぎない。今日という日は、幾千日のうちのたった1日にすぎない。●『感じ取る』描かれたがっているものは何だろう?まずは、より深く聴こう。●『理解を深める』自分の理解の幅を広げるためには、メンタルモデルの境界線を広げる」「相手の言葉やふるまいの背景や視点を知るための第一歩は、その人の立場から考えること。やり取りの全体像を見ようとすることで、自分の視座を高めることができる。そして、根底にあるものの意味を探求することで、理解のパターンを広げられる」といった記述が刺さる。


描く、という段階では「喜びは、人が心を動かされ、新しい在り方に目覚めていくのを目撃すること。人が成長することの美しさ、ただただ美しい、絶対的に美しい人間性そのもの」「思い描くとは、物事の根底に存在する秩序に触れ、その要素を表に出すための方法」あたりがいいなぁ、と思う。
そして、スクライビングについては「段階が四つある。①鏡のように映す。言葉を聞いて、絵にしてみる。②区別する。言葉を解釈して、話に流れを見つける。③紡ぐ。複数の背景や思いを紡ぎ合い、意味付ける。④表出化させる。見られたがっているものを表に出し、見せて知らせる。」「生成的なスクライビングは、社会における転換が引き起こす困難を緩和するために描かれる。私たちは描くことによって、未知を越えて、分断された状態から包含する状態への転換をはかる」とする。


普段のコミュニケーションにも役立ちそうな「ほかの人の発した言葉に色を付けるのは、私自身の経験に基づく思考で、これは、避けられないこと」「発言者は主張している(自らの意見や権利を述べている)か、探求している(すぐに答えが出るかどうかはともかく、何らかの質問をしている)か、そのどちらか」「会話は、『動かす』『後に続く』『反対する』『俯瞰する』のどれか」のあたりの洞察もあり、読んでいるだけで心が浄化される不思議な感覚。


21世紀は「大変不確かで不安定な世の中。その中で未来を切り開いていくには、勇気を持って未知の領域に踏み込む必要がある」と指摘する。しかし、それは恐ろしいことでもあるんだよな…


参考になったのは、U理論でイマイチ掴みづらいプレゼンシングという概念について「(私の解釈では)全体性の中で調和すること、そしてそこから、前に向かって進むために必要な要素を明らかにすること」としていること。これは、何かの鍵になりそう。


とっつきにくい感はあるが、読み進めてヒーリングされるような本はそうそうない。不思議な本だ。