世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】大平光代「だから、あなたも生きぬいて」

今年73冊目読了。いじめを苦にして中二で割腹自殺を図り、その後非行に走って16歳で暴力団組長の妻となりながらも、立ち直って司法試験に一発合格。非行少年の更生に努める弁護士となった筆者が、その半生を振り返り、諦めずに困難を乗り越えるエールを送る一冊。


昔ベストセラーになっていたのは知っていたし、大筋はテレビかなんかで見て知っていたが、やはり本人の絞り出す生々しい言葉で綴られた書籍は重さが違う。思わず、二度読みしてしまった。


人の親である身としては「母は、私のことを理解しようとせずただ泣くばかりで、そのくせ世間体ばかり気にしている。それが無性に腹立たしかった」「私は、叱ってほしかった。本気で私と向き合ってほしかった。でも、両親は一度も叱ってくれなかった」「私がこのようになった理由を、誰かにわかってもらいたかった。全部わかってくれなくてもいい。ほんの少しでもいい。私の心に寄り添ってくれる人がほしかった…」は、魂の深い所を揺さぶられる感じがする。


非行に走り、底辺にまっしぐらに向かう中で「<こんなところに出入りしてたら、感覚が変になる…>そう思ったが、私はやめなかった。ひとりぼっちは寂しかった…。誰でもいい。友達と呼べる人が欲しかった…。自分の居場所がほしい…」という心の叫びは重い。人間、孤独には耐えられないとはよく言われるが、それが端的にこの言葉に出ている気がする。そして、悪の道を進むことで「いじめに苦しんだ自分が、死ぬほどの苦しみを両親に与え、さらになんの関係もない他人をも苦しめる側に回った」という事態に陥るという人間の世の不条理、哀しさを感じずにはいられない。


そんな筆者を立ち直らせた後の養父の言葉「確かに、あんたが道を踏み外したのは、あんただけのせいやないと思う。親も周囲も悪かったやろう。でもな、いつまでも立ち直ろうとしないのは、あんたのせいやで、甘えるな!」は、人と真剣に向き合うことのパワーを感じさせる。


「どんなことを言われても、自分の受け止め方次第でだいぶちがうんやなぁ…」「ほんまの親孝行とは、いらん心配や苦労をかけへんことなんや…」などの筆者の感想は、その壮絶な経緯があるからこそ、響きが重い。そして、苦しんでいる人達への目線は熱く、真剣だ。「絶対に自殺はしないでほしい。死んでも地獄、運よく助かっても立ち直るまでは地獄。あなたの今現在の苦しみや悲しみは永遠のものではなく、いつかきっと解決する。どうか前向きに生きていってほしい」「家庭や学校や世間に対する怒りや不満を、道を踏み外すことで解消しようとしても、それは全部自分に跳ね返ってくる。自分がしたことの何倍にもなって。どうか周りの人の言うことを素直に聞いて、自分の人生も他人の人生も大切にしてほしい」の熱量は、筆者ならでは、だろう。


養父が贈ってくれたという言葉は、大事にしたい。これを知れただけで、この本を読んだ甲斐があったというくらいにいい言葉だ。
「今こそ出発点


人生とは毎日が訓練である
わたくし自身の訓練の場である
失敗もできる訓練の場である
生きているを喜ぶ訓練の場である


今この幸せを喜ぶこともなく
いつどこで幸せになれるか
この喜びをもとに全力で進めよう


わたくし自身の将来は
今この瞬間ここにある
今ここで頑張らずにいつ頑張る


京都大仙院 尾関宗園