世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】池井戸潤「下町ロケット」

今年72冊目読了。言わずと知れた超人気作家の、中小企業の社長が奮闘する様子を描き出す一冊。


超人気なのは知っていたが、「町工場のオッチャンたちの奮闘記なんだろうな」くらいにしか認識していなかったが、実際に読むと、なるほどこれは引き込まれる。いきなり法廷闘争から始まり、大企業の思惑、社員それぞれの願い、そして登場人物それぞれの背景が織り成す意外な繋がり。確かに、物語として非常に上手に伏線回収されていくし、面白かった。ついつい一気読みをしてしまった。


筆者が三菱銀行(当時)出身ということで、リアリティある設定ができるのだろう。登場人物の息づかいが豊かで、様々な角度から同じ物事を観ると全く違う形になる、というのが興味深い。ただ、一部「悪役」仕立ての登場人物がちょっと残念。ストーリー的にそう配置しているのだろうが、その人達にもそれなりの「義」があるはず。そこの部分が欠落している。


ストーリーを楽しむものであるのはよくわかるが、そんな中でも、苦境に際しての「どう話したところで、保身を考えている人間の気持ちを変えるのは難しい。人間の本性が現れるのは、平時ではなく、追い詰められたときである」「こんな状況の中にあって、去る者もいれば、親身になってくれる者もいる。数少ない支援者を信じられなくなったら、その先にあるのは、ただひとつ-破綻だ」という人間の真理には心を打たれる。だからこそ「自分の都合のいいときだけすり寄ってくるような商売はよしてくれ。いいときも悪いときも、信じ合っていくのが本当のビジネスなんじゃないのか」ということになる。


働くということについて「自分のためではなく、家族や社員のために働いている-そう考えることで、自分は心のどこかにある挫折感を打ち消そうとしていたのではないか。他人のためだと思い込むことで、真実から目を背けていただけではないのか」「オレは、もっと自分のために生きてもいいのかもしれない。そうすることで、逃げるだけの人生にはピリオドを打てるかもしれない。いや、そうすることでしか、ピリオドを打つことはできないはずだ」というのは、誰もがぶち当たる壁であるし、それとどう向き合っていくか。45歳になると、この言葉は重く響く。
「仕事っていうのは、二階建ての家みたいなもんだと思う。一階部分は、飯を食うためだ。必要な金を稼ぎ、生活していくために働く。だけど、それだけじゃあ窮屈だ。だから、仕事には夢がなきゃならないと思う。それが二階部分だ。夢だけ追っかけても飯は食っていけないし、飯だけ食えても夢がなきゃつまらない」と主人公に問われているのは、自分ではないのか?とも思ってしまう。


40を過ぎても惑いまくりな自分にとっては「何事も勝負所ってある。いまは大変だけど、一生懸命やればきっとうまくいく-そう信じることが大事」「なにが正しいかは、後になってみないとわからない。肝心なことは、後悔しないことだ。そのためには、全力をつくすしかない」の言葉を励みに、誠心誠意精励したいと感じる。


単純に、サラリーマンには読み物としてワクワクする面白い本だった。これは流行るわけだ。