世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】細谷功×佐渡島庸平「言葉のズレと共感幻想」

今年103冊目読了。著述家と編集者にしてコルク代表取締役の筆者が、対談をしながら共感というものが幻想にすぎないことを解き明かしていく一冊。


「そもそも共感などというものは所詮自己満足の産物であり、個人の頭の中にある幻想なのではないか」という仮説に立って書かれた本。これはなかなか深い対話がなされていて、とても興味深い。


物語、会話についての「いい物語とは、感情の流れが、リアリティを持って描かれること」「いい会話というのは、どこかにたどり着こうとしている会話」という評価や、具体と抽象についての「具体と抽象の行き来は、変化の激しい時代を観察するのに必要な思考法」「よい問題解決は、①具体を観察②抽象で考える③具体で具現化」という記述は、まさに筆者の深い観察に基づいている閃きなんだろうな。


言葉の罠として「日々顔を突き合わせている間柄だと、相手も自分も、言葉の定義は同じで会話も成立していると思い込みがち。しかし実際は、けっこう違っていたりする」その原因は「言葉というのは、実際に起きている現象を何らかの形で抜き出したもの。その抜き出す過程で、人が自分に都合のいいように抽象化することが実は問題で、抽象化の仕方がまさに千差万別なために、同じ言葉でも人によって解釈の仕方が変わってしまう」「言葉はあくまでも『仮決めで固定』しただけだと理解されていればいいが、言葉のほうが現実だと認識してしまう人が多い」というのは、耳が痛い…
さらに「ビジネスの会話では、抽象的な言葉が多用されて、フワッとした内容になってしまう。とくに外来語、カタカナ語が飛び交うときには、議論が完全な空中戦になっている可能性が高いと」「メタ認知しようと思えば思うほど、他人事感が出てきて、主体的に動けなくなる」というのは、仕事をしていると本当にそうだよな、と共感する。


現代というものについて「現代社会では毛づくろいのような身体的コミュニケーションは難しいから、言葉による情報交換を、毛づくろいの代わりにしないといけない」「仕事というものは『不便』や『不足』を解消するもの、マイナスをゼロにするためのものだった。でも、これからは、ゼロをプラスにしていくことが求められる。これは、ロボットやAIを中心としたテクノロジーの力が大きい」と分析するあたりも、深いなぁと感嘆する。


子育て世代としては「十年単位で子どもに向き合うことが、子どもを一人の人間として信頼することであり、子どもの行動ごとに自分の意見を言いたくなるのは、子どもではなく、自分の不安を見ちゃっている」のあたり、アラフィフとしては「不惑というのは、世の中を知って惑わなくなるのではなくて、自分を知って自分の身の振り方に惑わなくなること」のあたりが心に刺さる。それはそうだな…


この難しい現代においては「すべてのストーリーは自分にとって都合のいい妄想にすぎない。そして本当のストーリーとは無常ということだけである」「社会に対する思い方、自分に対する思い方なんて、なんでもあり。『そっちが好き』っていうだけでいい」というくらいの『いい諦念』を持ち合わせるべきなのかもしれないな。
結局、筆者たちも「人間のやることは、どれも一時の現象。それに一喜一憂するのではなく、今、目の前にある自分の時間、人生を楽しむ考えをできるようになりたい」「変えられるのは結局自分だけだから、自分の『楽しむ』っていうところを磨き続けて、虚無主義にならないようにしよう」と述べているし。


対話形式で読みやすいうえに、深い。これは良書だ。それにしても佐渡島庸平は本当に凄い観察力だよな…毎度感嘆する。