世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】仲正昌樹「統一教会と私」

今年104冊目読了。11年半にわたり統一教会に入信し、脱会して学者の道を進んだ筆者が、自らの半生と宗教体験を振り返る一冊。


2022年9月現在、相当に問題視されている統一教会。しかし、筆者は元・信者とはいえ、かなりライトなかかわり方をしていたことがわかる。こういう事実もあるんだな、という観点を得られた感じ。


統一教会の教えについては「キリスト教を『救いの歴史』として明確に位置付けているものの、イエスの救いが不完全だ歳、それを完成させるもうひとつのメシアが来るという考え方は、統一教会における教義の、おおよその基本」「『勝共』という言いかたには、単に共産主義に『反対』するのではなく、その問題提起の深刻さを受け止めたうえ、それを超える理論を示すことで、思想的に克服させるということが含意されている。こういう考え方の背景には、文教祖が北朝鮮の出身で、朝鮮戦争以前に、北朝鮮で布教活動をして迫害された体験があるのかもしれない」と説明する。こんなのは、部内にいたことがある人から聞く方が見えやすいよな。
その中で、「人間の堕落した本性と、サタンの働きかけということで、人の悩みの原因はほとんど説明できてしまう」「『苦しい状況にあること』を『神の愛の試練』として意味づけすることによって、苦しいと感じている信者たちの信仰をさらに深めさせるというのは初期キリスト教が布教のために考え出した戦略である。その後もキリスト教は、『苦しい=愛の試練』という逆転の図式をうまく利用し続けた」のあたりは、そもそも宗教全般に言えるので、なるほど、と思う。


問題の霊感商法については「万物のなかで、もっとも人が執着するのがお金だ。だから、物を売って『サタン世界』からお金を回収し、そのお金を献金することで、万物を象徴的に神の元に復帰する」とは噴飯ものだが、信じる人がいる異常、洒落にならんな。


人が宗教にハマる理由については「多くの人は、心の奥底で『自分の人生にはどういう意味(目的)があるのか』『自分はどういうふうに生きていったらいいのか』といったことを、誰かに教えてもらいたいという欲求を持っているのではないか。自分の人生の意味を誰かに教えてもらうことによって、自分の存在にまつわる不安を解消しようとしているのではないか。そして、その”誰か”は、私と同じただの生身の人間や、私と同じように自分の生の意味を見出せないで迷っている人間ではなく、神のようにすべてを見通している超越的・絶対的な存在であるほうがいい」「人から認めてもらったり、人を認めるという経験が日常的に不足していると、互いに認め合うシステムを構築している宗教に人が集まりやすくなるのは、当然の事」とのことで、経験者に言われると説得力がある。


統一教会への差別・弾圧については「市民社会的な法感覚で考えるのであれば、具体的な犯罪行為あるいは違法行為だけを問題にすべきである。宗教団体や特定の思想を信奉する団体だからといって、その思想的・教義的背景にまでさかのぼって、その団体の全体を犯罪者扱いしようとする態度は、それこそ擬似宗教的な思い込みの産物であり、危険である」「人は”多数派”を形成すると、いとも簡単に少数派を差別したり排除したりする。そして、その差別や排除に適当な理由をつけて、正当化する。『これは、差別ではない。自己責任で悪い道を走っている連中を罰しているだけだ…』というふうに。」と述べる。
確かに「他人に迷惑をかけない範囲で、宗教を信じたい人は信じればいいし、辞めたくなった人は適当な時期に辞めればいい、と思う。ただ、それだけのことなのである」というのはそのとおり。ただ、筆者の体験も事実であるが、霊感商法で苦しめられている人がいるのも事実。その客観的な視座を忘れずにいたい。