世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山口広「検証・統一教会=家庭連合」

今年118冊目読了。弁護士として、長年「全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長」を務めてきた筆者が、霊感商法・世界平和統一家庭連合の実態を暴き出す一冊。


もともと『統一教会って、怪しくて近寄るべきでない存在』という認識ではあったが、ここまで違法性が強いというのは衝撃的だ。2022年の安倍元総理射殺事件で一気に政教癒着が明らかになったが、2017年に執筆されたこの本がすでにはっきり認識していたのに放置されていたことが悔やまれる。


そもそも、統一教会の指導者が「文鮮明韓鶴子夫婦とその子、孫らは理想家庭とされてきたが、全くの崩壊家族、利権の奪い合い家族」という体たらくで、全くふざけている。


なぜ、統一教会が問題なのか。「通常の宗教団体は、霊界信仰や先祖供養で信者の心に平穏をもたらすのであって、決して金儲けの手段にはしない。霊感商法の『商法』たるゆえんは、霊界や先祖供養をことさら強調して相手を不安におとし入れて法外な現金を支払わせることにある」「日本から送金された金のかなりの部分は、韓国における文鮮明の不動産購入や建物建築費用にあてられている。さらに、統一教会グループ企業が軒並み大幅赤字のために、その赤字補填資金として使われてきた」「統一教会の『伝道』は、情報と判断の自由のいずれか一方が、あるいはその両方が欠如もしくは極めて制限された中で、入信を決意させるものだ。これを破壊的カルトである統一教会によるマインドコントロールだと言うこともできる」「自らは『統一教会』と呼称していたが、『教会』としての宗教団体というよりも『統一教会』と称するさまざまな顔を持つ営利・事業団体、ブラック企業と考えたほうが実態に近い」という指摘を受けると、これは本当に許せない集団だ。


なぜ、現代にこんな怪しい集団がはびこるのか。筆者は「欲望をあおるだけの消費社会の中で、人々は、自己を正面から見つめさせてくれる、自分の心を高めてくれる、心の空白を埋めてくれる宗教を強く求めている」ということが背景だと推察する。
その入信パターンは「①自己啓発型②逃避型③孤独型④人生の壁型⑤親との軋轢型⑥男女関係の悩み型」に大別されるとし、いずれにせよきっかけはアンケートなどの声掛けから始まる。そこで「感謝と前進、笑顔と賛美。『勢い』で迫ってくる彼らに負けて、つい話に乗ってしまう人は100人中2、3人はいるという。彼らは毎日200人を目標に、通行人に声をかけているのだ」と言われると、ゾッとする。


その教義もかなり歪んでいる。「すべての事物は男と女、陰と陽、メシアとサタンに二分される。物事はそう単純ではないが、統一教会は強烈にこの二分法を若者に植え付ける」「統一教会の信者は『一億円もっている人が100万円出すよりも、80万円しかもっていない人が100万円出す方が救いは大きい』と聞かされている。つまり、大切なお金であればあるほど、これをまきあげるべきというおそろしい論理がまかりとおっている」「なぜ日本人信者はこれ程までに韓国組織や文鮮明のために奉仕しなければならないのか。教義上、日本はエバ国家つまり女性の立場に立って、韓国やアメリカの組織を金銭面でも人材面でもサポートする使命と責任を担わねばならないと教え込んでいる」などは正気の沙汰ではない。


自民党との癒着も酷い。報道で指摘されている通り「文化庁は2015年8月26日、唐突に名称変更の認証をしてしまった。どうしてこれまでの運用を変更してしまったのか。統一教会の政治家への働きかけが奏功したのではないか。統一教会と近い関係にあると目されていた安倍首相や下村博文文科大臣(当時)が担当課に圧力をかけたのではないか」「安倍晋三首相は、統一教会の各種会合に才さん祝電を送るなど近い関係にあった。認証時の主務大臣だった下村博文文部科学大臣統一教会との交流があった。しかも当時、国家公安委員会委員長として警察組織を統括する特命担当大臣だった山谷えり子も、かねて統一教会信者の組織的選挙応援を受けていた」や、元信者の「参議院選挙での選挙運動もさせられました。統一教会が推薦する自民党の議員候補者の為に、知り合いに葉書を出したり、また電話をかけるように指示されたのです」という証言は重い。日本の与党が、日本を食い物にするカルト教団と癒着しているというのは本当に許しがたい。


他方、騙された被害者への筆者の眼差しは慈愛にあふれている。「あなたが悪いのではない。家族のことを大切に思うあなたのやさしさに付け込んで、誰もが抱える悩みを、まるで先祖の因縁のせいであなたが何とかしないと大変な事になると思い込ませた統一教会が悪いんです」は、まさにその現れ。それは、被害者家族に対して「『心配してるよ。何がそんなに君を夢中にしているか説明してよ。本当にいいもんなら反対しないよ』そう言って、心を開いて話し合ってほしい。『馬鹿なことはやめろ。お前は騙されているんだ。なぜ、それがわからないんだ』と上から目線で迫るのは最悪だ」というコメントにも見て取れる。


信教の自由として捉えられないのは「人はなぜ生まれるか、どう生きたらよいのか、だれにでも来る死をどう考えたらよいのか。これらのだれでもかかえる問いに、とりわけ若者がつきつける問いに、宗教家を含めて正面からだれが答えられるのだろう。カルトの教祖の思い付き的な答えにまかせておいてよいはずがない」「これは決して信仰の自由の問題ではない。信者の人権の問題であり、家族の崩壊を防ぐ緊急事態であることを認識してほしい」という点なのだろう。分厚い本だが、読み応え充分。