世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】三谷宏治「戦略読書」

今年125冊目読了。金沢工業大学虎ノ門大学院教授、早稲田大学ビジネススクール客員教授グロービス経営大学院客員教授を務める筆者が、オリジナル人材になるための読書法を余さず述べる一冊。


なぜ、読書をするのか。「日本人の読書についての問題は、戦略うんぬんよりまずは『量』。どれだけ読むか、こそが問題」「人の体が食べるものからできているように、人(の精神)は読むものからできているのだ」とし、この本の目的を「①自らの読書に戦略を持ち込み②スキルと経験を効率よく得て、自己を改造し③量産機にならず、オリジナリティのある存在(量産機改造型試作機)になる」「読書で『想像力』『批判的思考力』『メタ認知能力』を鍛えて『自由になる』」「幅広いジャンルの本を読むことは、新しい発想を生み出すことにつながる」「1冊の本から、新しく自分の身につけられる習慣やスキルなど、せいぜいひとつか2つ」とする。


読書戦略については「読書という活動を左右するのは、一義的には『時間配分』」「読書生産性=読書から得るもの÷かかった時間」とし、読書をセグメント化することを提唱。「●ビジネス基礎:少数の古典をじっくり読む。応用読書の基礎を作る ●ビジネス応用:成功・失敗事例やファクトのみをピックアップし、新しいコンセプトやフレームワークの学習は最小限にとどめる。どうせ使いこなせないから ●非ビジネス基礎:ヒトやコトの本質に迫る本を選んでじっくり読む ●非ビジネス新奇:売れたものや信頼する人のオススメ本を斜め読み」と分類したうえで、ポートフォリオごとに説明する。
「ビジネス基礎:読書方針は、自分が今関わっているビジネスの主要テーマごとに1~2冊、古典とされている本を読む。熟読玩味し、内容を理解する。資源配分は、1冊あたり10時間以上かかってもかまわない。すべての基礎になるので、読破するまではこれらに集中する。ただし10冊を超えないこと」
「ビジネス応用:読書方針は、自分が今関わっているビジネスの主要テーマごとに10冊程度、人気の高い本を読む。基本的には斜め読みでファクトの収集に努める。資源配分は、1冊あたりどれくらいかけるか、最初に見究める」
「非ビジネス基礎:読書方針は、自分が今関わっているビジネス以外の領域の本を読む。自然や人の本質を描こうとしている本であること。資源配分は、自分が楽しめる本を、ビジネス系とのバランスでどんどん読む。1冊当たりどのくらいかけるかは、自由」
「非ビジネス新奇:読書方針は、自分がこれまで読んだことがないような領域やテーマの本を読む。当たりがあればその筋の深掘りをする。資源配分は、1か月に1冊で十分」


また、上記ポートフォリオに加え、発見型読書の視点として「①過去や他業界と『対比』して大局観を持つ②これまでの当たり前を覆した『反常識』を見つける③徹底的に『数字』にこだわる④人より『一段深く』まで調べる⑤得たものはちょっと『抽象化』して考える・覚える」と提唱し、一段深く調べる方法として「①キーワード検索して20ページ分くらい斜め読みする②Wikipediaは英語版も読む③出典元の記事・論文も読む」を挙げるが、これはけっこう大変だよな…


読書のみならず、心構えとして「数字を見逃さない。特に『重み』と『差』に着目せよ」「あるものでなく、ないものに着目する」「思考とは『拡げる』ことと『絞る』ことの2種類に過ぎない」「ものごとを印象深く伝えるには、バラバラと素のまま相手に投げつけてはいけない。簡潔なネーミングが必須」のあたりは非常に参考になる。


基本的に、筆者は人間洞察が鋭い。「ヒトの能力は、言葉・論理・知識」「ヒトが言語で思考し、その言語が文字という図表で表されるがゆえに、読書という行為はヒトの脳を鍛える最高のトレーニングのひとつ」「知的活動は4階層。①素の情報であるデータ②それを整理整頓したインフォメーション③そこから意味合いを引き出したインサイト④それらを統合・抽象化してつくり上げたコンセプト」「コミュニケーションとは、膨大な『前提条件』の上で成り立つ、極めて精妙なガラス細工」などは、その際たるところ。


親としての心構えも勉強になる。「進化の反意語は停滞。文化停滞の打破には『教えすぎない』こと」「親にできることは、子どもたちが遠慮なく戦えるように、後ろで受け止め応援し続けることだけ」は、まさに然り。


分厚さのわりには面白く読めてオススメ。しかし、最後に435冊ものブックガイドがあり、これが重たい。また読みたい本が爆発的に増えた…嬉しいやら哀しいやら。