今年41冊目読了。上皇后陛下が皇后陛下であらせられた1998年、国際児童図書評議会に寄せた基調講演を収録した一冊。
端的にまとまって、読みやすく、中身も感じ入るものがある。本当に素晴らしい良書。ページ数は少ないが、充実の内容。特に心が動いたところだけ、抜き書きさせていただく。
「生まれて以来、人は自分と周囲との間に、一つ一つ橋をかけ、人とも、物ともつながりを深め、それを自分の世界として生きています。この橋がかからなかったり、かけても橋としての機能を果たさなかったり、時として橋をかける意志を失ったとき、人は孤立し、平和を失います。この橋は外に向かうだけでなく、内にも向かい、自分と自分自身との間にも絶えずかけ続けられ、本当の自分を発見し、自己の確立をうながしていくように思います」
「一国の神話や伝説は、正確な史実ではないかもしれませんが、不思議とその民族を象徴します。それに民話の世界を加えると、それぞれの国や地域の人々が、どのような自然観や生死観を持っていたか、何を尊び、何を恐れたか、どのような想像力を持っていたか等、うっすらとですが感じられます」
「本というものは、時に子供に安定の根を与え、時にどこにでも飛んでいける翼を与えてくれるもののようです」
「『喜び』は、これから先に触れる『想像力』と共に、私には自分の心を高みに飛ばす、強い『翼』のように感じられました」
「子供時代の読書とは何だったのでしょう。何よりも、それは私には楽しみを与えてくれました。そして、その後に来る、青年期の読書のための基礎を作ってくれました。それはある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと作っては、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、大きな助けとなってくれました」
「読書は私に、悲しみや喜びにつき、思い巡らす機会を与えてくれました。本の中には、さまざまな悲しみが描かれており、私が、自分以外の人がどれほどに深くものを感じ、どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、本を読むことによってでした」
「そして最後にもう一つ、本への感謝をこめて付け加えます。読書は、人生の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても。」