世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】荒木博行「自分の頭で考える読書」

今年123冊目読了。株式会社学びデザイン代表取締役社長の筆者が、変化の時代に、道が拓かれる「本の読み方」を提唱する一冊。


イラスト入りで、肩の凝らないような読み口ではあるものの、主張はかなり重厚。これは読んでよかったと感じさせられた。


筆者は「著者の話を無条件で呑み込むのではなく、何らかの新たな『問い』を持つことで私たちの頭を駆動させる」ことが読書で大事だ、とする。
そして、そのためには「過去のスキルセットを生かし続けるために、過去に培ったものの中から大事なものを抽出してその本質を見出し、未知の世界に生かす」「本に向かう前には、まず過去を忘れて没入から入る。そして、その次に自分の経験を使いながら解釈していく」という姿勢が大事だ、と述べる。


なぜ、他のコンテンツではなく読書なのか。筆者の「本を読んでいる間の私たちは、さまざまなことを思考しながらページをめくっている。動画や音声とは異なり、自分でコンテンツを消化するペースを決めることもできる。つまり、本には五感的にも時間的にも、思考できるだけの『余白』が十分にある」「本は受け身ではなく、こっちからそっちの世界に出向いていく必要がある。そして、自分の経験や思考をフル動員して言葉や文と向き合い、その意味を解釈せざるを得ない」「本には余白があるからこそ、その余白を読者がいろいろな色で塗りつぶしていき、塗りつぶされた色によってその本は新たな命を与えられていく」という見解は、読書の『余白』を埋めるという読み手側の特性をわかりやすく示してくれる。


読書に向いた環境についても「それぞれの本は、どういう『コンテクスト』とセットになると威力を発揮するのか、考えてみる。それは、本を読む『場所』と『タイミング』。できるだけ、その本のメッセージと符合する空間で読んでみる。『タイミング』とは、どういう心境のときに読むかということ」「読書に最も適しているのは、自分がつらいときや傷ついたとき、気分がへこんでいるとき。満たされない感情があり、それを自分で満たすことができないからこそ、他者の力を使って満たしていく。そのために、本というのはとても頼りになる存在」と述べているのは、本好きなら納得の記述。


読書の効用を「本は『問い』と『答え』が自分にとって新しいかどうかを整理することで『問いの発見』『答えの発見』『既知のリマインド』に分けられる」「『問いの発見』は、それまでの自分の考え方や認識をいったん否定することにもつながるため、かなりのストレスや負荷がかかる」「自分がすでに『問い』や『仮説』を意識していながらも、その『答え』を見事に裏切ってくれるカテゴリーの本は、新鮮な驚きを与えてくれる」「既知のことであっても、定期的に自分に対してリマインドを入れていくことは必要」とし、「常に『今の自分』を客観的に見つめながら、そのときに最適なポートフォリオを組んでみる」ことが大事だ、と指摘する。


そのうえで、「本の抽象度を高める前に、自分の『問い』の抽象度を高めておく」「重要なのは、本からもらった抽象的なヒントを、最後に自分で具体レベルまで落とし込むこと」と主張したうえで「行き詰まり感があるときこそ、『本』という道具を活用して抽象の世界にジャンプする。そして、新たな具体に着地する」と、細谷功『具体⇄抽象トレーニング』と同じような結論に辿り着く。


では、読書の効用を実際にどう定着させるのか。「まずはアウトプットの場を定義する。そして逃げ場がないようなかたちに仕立てる」「読みっぱなしにせず、書く、もしくは話す」「読んだまま放置するのではなく、自分なりの読後のルーティンを定義してみる。それを愚直にやり続けることによって、沈殿はアクティブに動き始める」は、部分的にはやっているのだが、やはりそれでも難しい部分があるよなぁ・・


生きる意義についても「私たちは『問い』を抱え、育てることに対して努力しなくてはならない」「『自分とは何をする存在なのか?』という答えの出ない『問い』を持ち、その『問い』を抱えながら、『答え』を発見しようとチャレンジしていく」と、かなり積極的な投げかけがあり、とても面白い。


ついつい多読にふけりがちな自分にとっては「本当に自分にとって大切な『問い』や『答え』を発してくれる本に向かい合うことのほうが、年に300冊読むよりよほど価値のあること」「無理して完読しない。でも単に読み捨てるのでもない。このちょっとした工夫の積み重ねから、適切なタイミングで適切に本に巡り合う可能性を高めていく」「『熱狂7割・懐疑3割』こそが『本に読まれない』ための、大切な自我の確立」のあたりが耳に痛い…今後、留意しよう。