世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ペール・アンデション「旅の効用」

今年75冊目読了。スウェーデンのジャーナリスト、作家にして世界各国をパックパッカー、ヒッチハイカーとして旅する筆者が、人はなぜ移動するのか?についてまとめた一冊。


旅好きにして、観光業に関わる身としては、新聞で紹介されていていたので思わず手にしてみた。やや散文調で、読むのは疲れるが、そこここにいい指摘は入っていると感じた。


旅とは何か。筆者は「旅は、世界観を広げる上で有効かもしれない。結局のところメディアの報道だけでは不十分だし、歴史的な見方を怠ることも多い」「旅とはつまり、仕事から遠ざかる方策であり、『人生に意義を求める日々の闘い』から距離を取る方策なのだ」「旅とは、未知の音、噂、慣習と相対することだ。当初は不安になり心が混乱したとしてもなんとかなるものだ。旅に出れば、一つの問題にも解決法が何種類かあることを知って心が落ち着くようになる」と定義。
その効用としては「旅をすれば感覚が研ぎ澄まされ、世間や家庭内の状況に対して注意深くなる。今まで無関心だったことにも、不意に何かを感じるようになるのだ」「旅をした人は新たな体験に対して開放的になり、精神も安定し創造的になるが、それは旅が私たちの言動を調整し、行き先の習慣を受け入れることを教えてくれるからだ。旅をする人は他人に共感するようになり、容易に妥協して他人とうまくやっていくようになる」と述べる。


人はなぜ旅をするのか。「旅は、私たちがホモサピエンスであることと関連がある。好奇心だ。『無用な』知識を求めて努力し、知恵を拡大し、視野を広げ、世界像を拡大し、混沌を整理し、秩序を確保しようとする意思である」「人は一日中おとなしく座ってはいられない」「脚が動き始める瞬間、思考も流れ始める」のあたりは人間に組み込まれた本能だと思うし、「探すのをやめないこと。旅をやめないこと。なぜなら広い世界が待っているからだ。世界が小さくなることはない」も本当にそうだと感じる。


筆者は飛行機旅行に否定的。「飛行機旅行は、私たちの世界観を歪めてしまうのだ。飛行機で旅をすれば、世界を航空路の網の目と見なすようになり、鉄道路線や車道、そして草原と湖の脇を牛がたどる道、さらには森を抜けてアルプスの峠を越える道を忘れてしまうことになる」「目的地に至るまでの過程が旅の重要部分なのだ。目標、目的地に集中しすぎると、旅に満足できなくなる。あまりスピーディーに到着すれば、何も体験できなくなる。」はそうなのだが、やはり多忙貧乏な日本人としてはそれは難しいよな…


旅から帰ったときの感情「結局、私の日常生活は快適なおなじみの環境であり、それこそが私にぴったりなのだ。だが私は知っている。この気持ちがやがてすぎ去り、憧れがふたたび到来することを。」は、全く共感。旅にハプニングはつきものだが「失望を体験させられたために旅の目的の優先順位を変更し、即興的な行動をとるようになれば、すぐさま幸福が手に入ることもある」の心持ちは忘れずにいたい。


正直、筆者の体験がメインであるので上にけだるい本なのだが、「体験が人間を形成してくれるのだ。私たちは体験でできているのだ。体験の結実なのだ。体験する印象が増えれば増えるほど、私たちは人間として成長する」は本質を突いていると思う。読んだら、自分も旅に出たくなった。この本をお薦めするかといわれると疑問だが…