世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】馬田隆明「解像度を上げる」

今年11冊目読了。東京大学FoundXディレクターの筆者が、曖昧な思考を明晰にする『深さ・広さ・構造・時間』の4視点と行動法を解き明かしていく一冊。


ついつい適当に仕事をしがちな自分にとっては、これは大きなヒントになるかと思って手にしたが、なるほど非常に奥が深く、勉強になる。


そもそもの問題として「解像度が低い状態で業務や意思決定をするのは、霧のかかった中で射るべき的が見えないまま、当てずっぽうに打ち手という矢を射るようなもの」「疑問がない、質問ができないのは、解像度が低いときの典型的な症状」「私たちはシステムの複雑さから目を背けて、因果関係や法則を単純化して観たがる」と指摘されると、もう何も言えない…そのとおりだ…


解像度の構成要素を「『深さ:原因や要因、方法を具体的に掘り下げる』『広さ:考慮する減員や要因、アプローチの多様性を確保する』『構造:深さや広さの視点で見えてきた要素を、意味のある形で分け、要素間の関係性やそれぞれの相対的な重要性を把握する』『時間:経時変化や因果関係、物事のプロセスや流れを捉える』の4つの視点 」とし「まず深さを確保することで、解像度を上げるサイクルが回り始める」と説かれると、自分の浅さを指摘されているようでとても痛い…


まず、解像度を上げるためには「日常的な認識の『自動運転モード』をいったんオフにして、『マニュアルモード』で物事を見なければいけない」「高い解像度には『情報』と『思考』と『行動』の組み合わせで至る」「解決策の善し悪しは課題に大きく依存する」とする。
そして、ポイントは「『まず行動する』『粘り強く取り組む』『型を意識する』」とし「行動量を増やすことで、質の高い情報と思考を獲得するサイクルが回り始める」「少なくとも200時間を情報と思考と行動に使わなければ、最初のそこそこ良いアイデアに辿り着くことはできない。優れたアイデアに到達するには1000時間必要」「まず解像度を上げるべきなのは顧客の『課題』とそれに応じた『解決策』」だと言及する。


よい課題の条件は「①大きな課題である②合理的なコストで、現在解決しうる③実績を作れる小さな課題に分けられる」とし『深さ』の視点については「課題を捉えるとは、症状でなく、病因を突き止めること」「内化(読む、聞く)と外化(書く、話す、発表する)を繰り返すことで深めていく」「細部にこそ、深い洞察のヒントがある」と述べる。
そのために「事例のサーベイには、最低100の事例を集める」「インタビューでは、顧客の意見ではなく事実を聞く。50人に聞いてようやく入口」「解像度は一気に上がることはそうない。そのため、モチベーションの維持が重要な要素」と、『やりきる』ハードルを指摘。確かにそうだよな…


広げる上での基本は「『前提を疑う』『視座を変える』」とし、視座を高くするには「①2段階上の人の視座から観る②視座の高い人と会話する」「『体験する』『人と話す』という広さの探索にきちんと時間と資源を割り当てておくことで、中長期的な生産性は最大化される」だと言うが、これが難しいんだよな…
構造を見極めるには「渾然一体となっているものを要素に『分ける』、それぞれの要素を『比べる』、要素間を適切に『関係づける』、重要でないものを『省く』」「目的に合った適切な行動ができる単位まで分ける」「抽象度を合わせることで比較が可能となる」「物事にどのような構造を見出すかは、どれだけ多くの構造のパターンを知っているかが大きく影響する」とし、「時間は『変化』『プロセスやステップ』『流れ』『歴史』の視点で解像度を上げる」とする。


具体的レベルにおいて「課題の解像度を上げるとは、その課題の研究者やマニアになるということ」「実験という行動をすることによって、解像度を上げるための独自の情報やきっかけを得られる」「行動することで、周りの環境が変わり、新しい機会を作り出す」「理想を生きなければ、行動しなければ、未来の解像度は上がっていかない。未来に生きて、欠けているものを作る」というアドバイスがあるのも、とても心に響く。


そのほかで心に残ったのは「インターネットの普及やデータの増大、数字で議論することが高く評価されるにつれて、足で稼ぐことの価値が相対的に高くなっている」「独自の情報は、自分の現場での経験から生み出されるか、人からもたらされることが多い」「上達のためには、行動しなければいけないし、本気で行動しなければなかなか身につかない。思考は運動のようなもの」のあたり。とにかく、実践しないと何にもならない。ある意味、とても厳しい本だと感じる…