世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】苫野一徳「教育の力」

今年117冊目読了。熊本大学教育学部専任講師にして、若手の教育哲学者である筆者が、教育界に渦巻く不幸な対立を乗り越え、みんなのための、より『よい』教育のあり方を提示する一冊。


畏敬する先達が薦めていたので読んでみたら、なるほどこれは良書だ。自身も人の親であるため、これは考えさせられる。


筆者は、教育への幻想をたたき切るべく「あらゆる社会的な問題の解決を期待できるほど、”教育”は万能ではない。そもそも人間は、意図的な”教育”で何とでも育てられるほど単純な生き物ではない」とまず断ずる。


教育を、単なる人育てとは捉えず「繰り返される命の奪い合いを、どうすれば原理的に終結させることができるのか?いつの時代も、これは人類最大の課題の一つ」「人間は、自らが生きたいように生きたいという欲望、つまり<自由>への欲望を本質的に持ってしまっているがゆえに、この<自由>を求めて、相互に争い続けてきた」「<自由の相互承認>を十分に自覚した上で、自らができるだけ生きたいように生きられることが<自由>の本質」と、そもそも自由に生きることの本質をえぐり出している点が秀逸と感じる。


では、教育の目的とは何か。「公教育の原理(目的)は、各人の<自由>および社会における<自由の相互承認>の、<教養=力能>を通した実質化」「<教養=力能>は、『生きたいように生きられる』ようになるための“力”」「学力の本質とは『学ぶ力』」「学ぶ力をつけるには①学びの個別化②学びの協同化③学びのプロジェクト化、が必要」「今、これができるから、こうしなければならない、とすぐ考えるのではなく、今これができるから、それをどのように<自由>と<自由の相互承認>と<一般福祉>に資するものとして導入・活用できるか、と考える必要がある」のあたりは非常に共感できる。
さらに「相互承認の感度は、自己承認、他者承認、そして他者からの承認がそろってようやく十全に得られるもの」「子どもたちに対する教師の『信頼・承認』こそが、『相互承認の感度』を育むための最も重要な土台」も、そのとおりだと感じる。


難しい現代社会だからこその「価値観の多様化の進展で、明確な価値が失われてしまった今、わたしたちは何を確固たる目標として生きていけばいいか分かりづらくなり、価値の拠り所を失ってしまった集団の中で、空気を読み合う人間関係を多かれ少なかれ送らなければならなくなっている」「“絶対”なんてないということを前提にした上で、なおいかに『共通了解』を見出し合っていけるかを考えること、これが力強い思考のあり方」という提言は重い。新書ながら、色々と考えさせられる良書だ。