世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】堀江敏幸「オールドレンズの神のもとで」

今年150冊目読了。早稲田大学文学学術院教授にして小説家の筆者が、現実に即した話から、非常に不思議な世界の話まで、その想像力と創造力で様々な話を織りなすオムニバス形式の一冊。


学生時代の畏友が薦めてくれたので、自分では絶対に手にしない本を読んでみた。途中、読みにくい小説もあったが、基本的にはなかなか興味深かった。


身体と感覚について「どこかで無理をすると、ときどき身体がこんな反応を返してくる。吐き気、めまい、頭痛。たしかにいまは、流れていく景色を無視したほうがいい」「無理に踏ん張って大けがをするより、切り捨てるべきところは切り捨てて再生をはかったほうがいいこともある」のあたりは、45歳になると切実に感じる。


そして、人間の感覚について「この年になって、わたしにもわかってきた。大事なことは、少し遅れてやってくるんだって─」「ほんとうの新鮮さは、はじめて出会ったものに対して感じるのではない。もう出会っていたのに気づかなかったことがらとの再開によって生まれるものだ」「いつのまにか、つまらない世間体に気を取られていたのかもしれない。こだわっていないふりをしながら、心の底ではいつも同僚や友人の価値観とたたかって、背伸びをしていたのである」と記述されていると、しみじみと感じ入る。


相変わらず、色々と迷うことは多いが、「結局のところ、大人はいつも、あいだにあるはずの大切なものを飛ばして、自分の関心事しか見ないのだ」「ただ学ぶばかりではそれを使う時間がなくなる、使いながら学ぶことでしか学べないことがある」「ものごとは最初から真偽が決まっているのではなく、伝える人の品性と本性によって真にも偽にもなる」のあたりはしっかりと受け止めて生きていきたいと感じる。


これは読んでよかった、という良書だ。ただ、ある程度人生経験がないと、響かないようにも感じる…