世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】津野香奈美「パワハラ上司を科学する」

今年100冊目読了。神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科准教授の筆者が、パワハラについて多くの人がやってしまっている誤った対応を明らかにし、本当に防ぐにはどうすればいいのかに迫る一冊。


これも圧倒的な読書家である先達が薦めていたので読んだ。自らも、端くれながらも「上司」という看板を担っているので、非常に耳が痛い話ばかりだ…


筆者はパワハラについて「パワハラの『加害者』とされている人に話を聞くと、驚くほどに、パワハラをしていること、あるいは誰かを傷つけたり職場環境を悪化させていることを自覚していない」「着目すべきは、行為者や被害者の認識がどうだったかではなく、『行為そのもの』『手段』『表現の仕方』が不適切かどうか」と指摘して自覚を促す。


パワハラを発生させる人の特性について「人は優位な立場に立つと①慈悲や同情の気持ちが減る②権利意識や自己利益についての意識が強くなる③周囲の人の不利益を顧みなくなる」「パワハラ行為者に男性が多い理由は①管理職に男性が多い②男性の方が攻撃的な行動をとりやすい③“有害な男性らしさ”の影響を受けている④男性の方が相手の感情を読み取りにくい⑤パワハラ行為を行いやすい性格傾向を持つ人が男性に多い」「パワハラ行為者は、外向的で一見人当たりが良さそうでも、本当の意味で人(相手の幸せや欲求)に関心がなく、利己的で他者を利用する傾向がある」「パワハラ行為者は、目的のために嘘をつくことがたやすいため、その人と一緒に仕事をしたことのある同僚や後輩、部下にヒアリングするべき」と分析。さらに「基本的に人は、刺激をどんどん求めていく性質がある。暴走するパワハラ行為者を止めるのは管理職の責任」と指摘する。


さらに、パワハラをしやすい上司を類型化。「恐怖と不安のマネジメントは、不正行為や逸脱行為を増やす」「上司が放任型だとパワハラが新規に発生しやすく、部下もメンタル不調になりやすい」「専制型上司と放任型上司の両方が同じ職場に存在する場合が最も危険。専制型のリーダーが部下や後輩を苦しめて追い詰めていても、その上の上司が放任型で注意したり止めに入ったりしないと、専制的な言動に“無言の承認”を与えてしまう」というのは、確かに経験上も納得できる。


そもそも、なぜ人はパワハラをするのか。筆者が実例を集めながら類型化する「人がいじめやパワハラをしてしまう原因は、①自尊心の不安定な高さ②感情知能の低さ③自分の言動が他者にどのように影響するのかの認識の甘さ④他者に対する期待水準の高さ」「自分に厳しい人、努力をしてきた人、~すべきという価値観を多く持っている人は、パワハラをするポテンシャルが高い」「パワハラしやすいタイミングは、①新しくパワーを得た時②ストレスが高い時」「パワハラを誘発させる職場環境は①高度に従業員が管理されている②要求度やプレッシャーが高い③役割葛藤・役割の曖昧さがある④冗談やからかいを容認している⑤男らしさが求められる⑥体育会系」のあたりは共感できる。


これからの時代は「組織に必要なのは、人を傷つけたり潰したりすることに全く痛みを感じない邪悪な性格特性を持つ人に対して、決してパワーを与えない、そのような人を決して昇進させないという、強い意志」が必要で、それを実現するには「①部下の長所を伸ばせるように助ける②部下一人ひとりが違うニーズ、モチベーション、スキル、キャリア展望を持っていることを頭に入れて接する③単なる集団の一員としてではなく個人として接する」という個別配慮型リーダーシップが大事だと主張する。


個人としてはどうすべきか。筆者は、感情の自己認識能力を高める方法として「怒りを感じたときに、日時と場所・事実・思考・感情・自分の中にあった期待や価値観を記録する。怒りの裏にある一次感情や、自分自身の信念・価値観・期待を知る。自分の信念や価値観を人に押し付けることはやめ、自分の中だけで大切にする。自分ができているところ・できていないところについて、周囲からフィードバックを貰う。リラックスしながら、自分の感情を観察する」。あの人はダメだ、仕事ができないと思ったら「あの人は仕事ができないのではない。①やり方を知らないのか②苦手なのか③何か事情があるのだ、と思う」という手法を提唱。さらにダメ出しの鉄則「①周りに人がいない状態で行う②ほめられる点・できない点を先に伝える③人格否定をせずに、何をどうしてほしいのか伝える(a行動の指摘+bなぜそれが問題なのかの説明+cどうしてほしいかの具体的な説明)」も提案する。


一番重要なポイントは、案外「人は自分が育ったり生活したりした環境を『普通』だと認識するので、それが異なる人がいると想像するのが難しくなる」というところなのかもしれない。人事という観点からも、考えさせられる本だった。