世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】佐渡島庸平「観察力の鍛え方」

今年24冊目読了。株式会社コルク代表取締役社長の筆者が、一流のクリエイターは世界をどう見ているかを明かしていく一冊。


これは面白過ぎるし、深すぎる。これが新書というのが驚きだ。この本は、繰り返し読んで、自分の中で解像度と解のレベルを上げていく必要がある、と強く感じた。筆者の考え方は基本的に好きなのだが、こんな本は珍しい。


そもそも、観察ということは何なのか。「観察力こそが、様々な能力につながるドミノの一枚目」「『観察』は自分で見つけてしまったがゆえに解きたくなる『問い』とセットでモチベーションになりうる」「誰にでも思いつくようなありふれた問いを、仮説と観察によって、研ぎ澄ましていく」「いい観察は、ある主体が、物事に対して仮説をもちながら、客観的に物事を観て、仮説とその物事の状態のズレに気づき、仮説の更新を促す。一方、悪い観察は、仮説と物事の状態に差がないと感じ、わかった状態になり、仮説の更新が止まる」「できるだけ無意識で動きたいというのが人の本能なのだ。本能は、人が無意識の自動操縦で生きられるように導いてくる。観察とは、それらの無意識で行っている行為を、すべて意識下にあげること。つまり、観察とは、本能に抗おうとする行為だ」まで深く洞察したことはなかった。


言葉については「仮説を言語化し、意識することで、無意識的な認知も少しは意識できる」「仮説は言葉から始まる」「言葉にして頭の中で整理するからこそ、解像度が上がる。言葉とは、人間が唯一、時空間を超えて、携帯できる武器」と鋭く定義する。


なぜ、人間は観察力が衰えてきているのか。「観察を阻害する要因は、認知バイアス(脳)、身体と感情(感覚器官)、コンテクスト(時空間)のバグ。人間は、この3つのメガネをかけて、世界を見ている」「現代はたくさんの道具がある。その道具に振り回されると、人は観察ではなく『観測』を行ってしまう」は、そうだろうな…


仮説については「何らかの立脚点が必要になる。①ディスクリプションによって立ち上がった言語②定性的なデータ③定量的なデータ④型、の4つで自分の外を観察し、仮説を作り、観察を繰り返す」「自分の中を観察して見つかるのが、ブレることのない自分の価値観、モノサシ。握り締めすぎると、融通の利かない頑固さを生みだしてしまう。あくまでも、現実を観察するための道具であり、アップデートするものだ。そうとらえておくと、仮説を導き出す道具として機能する」と述べる。なんとなく、ではダメなんだな…


観察力を鍛えるには、どうすればいいか。「自分は認知バイアスの影響を常に受けていると自覚して、それを意識しながらモノを見たり、判断をしたりする」「『計画』を起点に考えると実行の熱量が上がらず経過倒れになりがち。『振り返り』を起点にすると熱量が高まる」「客観と主観、具体と抽象を、適切なタイミングで行き来する必要があり、その切り替えのタイミングを理解していく」「正しくないと思わせているのは、自分のこだわりでしかない。想像通りにいかないことを楽しめるようになると、行動することが怖くなくなる」は、留意しておきたいところ。


そのほかにも「『怒り』は、大切なものがおびやかされることに注意が向いている状態。『悲しみ』は『ないもの』に注意が向いている状態」「自分の身体を、奇跡の結果だと感じ、その身体を通じて、自分の心を観察し、世の中を観察し、つながろう」「オリジナリティがあるものをつくるためには、型を携えて、辺境へ行く必要がある」「真似を続けていると、型の存在に気づく。そして、その型について、なぜ生まれたのかなどを自分なりに考える中で、型が身につく。型を通して、観察ができ、仮説が立てられるようになるまで、真似をし続けて、型を身につける」「人は関係性の中でのみ力を発揮できる」のあたりは、心に響く。こういった鋭い意識を持ち、実践することは本当に難しい…


筆者の生き方として「本来は、ほぼすべての人が、その人なりの良さを社会に還元しようと動いている。しかし、良さの概念が、人ごとにずれているから、悪意と感じてしまう。そこに、その人の善意を感じ取れる観察力を僕は身につけようとしている」「バイアスについて学び、バイアスを武器にして、現実を見る準備ができていると、同じものをみても、不安ではなく、ワクワクできる」「物語によって、見えないもの(感情と関係性)に気づく能力を鍛えることができ、僕は現実社会と向き合う準備ができたのだと思う」というのは本当に凄い。なるほど、クリエイティブになるわけだ…


そして、特に大事なことは「すべての人と一期一会の感覚で向き合うことが、人生を豊かにすることだ」「感情を使いこなすことは、幸せへの近道なのかもしれない。そのために必要なのが、感情を観察することだ」「星界主義の中にいると、過去と未来にこだわる。それを手放し、あいまいさを受け入れると、今だけになる。すると、自然と今に集中することができる」「『わからなさ』を味わい尽くすことが、よく生きることだ」という『構え』を体得することなんだろうな。


何度も読み返して、自分の体に入れていきたい。そんな本だ。