今年170冊目読了。「言葉」「機械」などを重層的に扱う人気SF作家が、地球と異星体との戦いを通じて、人間というものを描き出すSF小説の続篇。
「戦闘妖精・雪風<改>」「グッドラック」のさらに続篇。SFから、どんどん哲学議論に入り込んでいくような話に変容してきた。個人的には、哲学的な話が好きなので楽しめたが、SFとして読むには辛いかもしれない。
ネタバレ回避のため、気になったフレーズを抜き出してみる。
言葉についての言及「言葉は無意識の思考の一部をスポットライトのように照らし出すことのできる強力なツールだ。ヒトはそれを使って自分や世界ぎなにを考えているのかを探ることができる」「意識というのは<言葉>そのものでしょう。自分とは何者かと考える言葉なしでは、<自意識>すなわち<自分>を意識することは不可能だ」「考えていることを言葉に出すと、不安が消えてゆく」のあたりは、人間というものが言語にいかに縛られているか、がよく理解できる。
認知と行動について「われわれは常に人間であるわが身に置き換えて物事を見ているが、それはようするにそのような共感フィルタを通してしか世界をみることができない、ということだ」「行動して感じ取るしかない。感じ取る、まさに、それが、答だ。今自分が生きていると感じる、それこそが、窮極の答なんだよ」と述べるあたりは、人間が身体性を持つ以上、どうしても抜け出せない軛であるとともに、それ故に思索できる、ということなのかもしれない。
そして、上記の制約ゆえに「<世界の真の姿>は、それ自体は決して変化したりはしない。変化しているのは観測者の意識のほうであって、意味を生んでいるのも観測者自身だ。観測される対象のほう、<世界の真の姿>をした<リアル世界>は、まったくの無意味なままに、変わることなく、ただそこに在るだけだ」「リアルな視点でしか見られない世界というのは、人間には生きにくい場だ。無味乾燥で味気ない。リアルな世界とは、ようするに人間らしさなど必要ないというところ、場なのだ」ということが起こるのだろう。
面白かったのだが、「人間は自らの残虐行為から目を逸らすための方便を発明しては、さらに行為をエスカレートしてきた動物だ。人間は、リアルに耐えられない。リアル世界から遠ざかる方向に人間は進化した」の言及は正鵠を射ていてゾッとした。確かにそうだよな…
通しで読まないと、何が何やら、だが、この世界観が好きな人にはたまらない一冊だ。