世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】河合薫「他人の足を引っぱる男たち」

今年63冊目読了。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演後、東京大学大学院医学系研究科に進学した筆者が、ホワイトカラーの”ジジイ化”をうながす「会社員という病」の根源に迫る一冊。


新書だからさらりと読める、と思っていたが、とんでもない。アラフィフの自分にグサグサと突き刺さる鋭い言葉が多すぎ、付箋だらけになってしまった。


そもそも「会社という組織は『感情の吹き溜まり』である。人間関係がすべての問題の根源であり、いかに感情をコントロールするかが極めて重要。ところが、これがすこぶる難しい。つい、感情が理性を凌駕し、『足を引っぱればいいじゃん。そしたらスーッとするよん』という魑魅魍魎の誘惑に負けてしまう」と、その恐ろしさを指摘。


ジジイとは「変化を嫌い、自分の保身だけを考え、『会社のため』『キミのため』と言いながら、自分のために既得権益にしがみつき、属性で人を判断し、『下』の人には高圧的な態度をとる人々」であり「会社員という病」に侵されている、と述べる。


日本組織については「明確な『ウチ』と『ソト』が存在し、『ウチ』の最大の価値観は『みんな一緒』。米国人は失敗した人を応援するが、日本人は足の引っぱりあいで牽制する。抜け駆けを許さない日本人の同調圧力は半端ない」「日本の会社組織で求められるのは『タテシステム』への適合。『ウチ』と『タテ』で構成される組織に適応するための最良の手段が忖度。とどのつまり、『場』に基づく集団である日本の会社組織では『ジジイ』が生まれやすい」と、その特異性を明かす。
そんな中で「ひとつの組織に長年いると、過去を生きるようになってくる」「『会社に命じられたことをきっちりやれば、また道が開ける』という会社員らしい”幻想”で会社にしがみつく」という状況になり「会社員が会社員を蔑みながらも会社員を辞めないのは、現実に背を向け、楽観主義的に『現状維持=リスクの少ないシナリオ』を選択した結果」というおかしな最適化が行われていることを示す。


権力、権威の罠については「他者評価を気にする人+承認欲求の強い人=権力が大好き!というわかりやすい公式」「絶対感は、情報を処理する能力を著しく短絡的にする」「権力が『人』に与えられるものであるのに対し、権威は『人』によってつくられる、得体の知れない曖昧なパワー。『権力への野心』と『権力にすり寄る欲』が合致したとき『権威』が生まれる」と指摘。
対抗するには「権威というまやかしに決して流されないためには『強い自己』を持つしかない。正しいことは正しい、間違っていることは間違っていると言うことを恐れない自己への信念」と提唱する。


しかし、中高年層も追い詰められている。「社会的地位や高い収入といった外的な豊かさは、想像以上に人間の『たくましさ』を封じ込める。自分のものさしを信じる力、『自律性』が欠けた時、人は動きを止めるしかなくなってしまう」「中高年男性の自殺手段でいちばん多かったのは『縊死』、次いで『ガス自殺』。家族が寝静まったあとに、強い意思で命を絶っていた」という事実は恐ろしい。


世の中が変化する中で「40代~50代の人生の『思秋期』で、自己中心的な発想を超えて、後輩のため、子供のため、地域社会のために役立とうとすることは人間を成熟させ、幸福感を高める」「会社員を取り巻く環境が劇的に変わりつつある今、求められうのは『マッチョさ』ではなく『しなやかさ』」「人生100年時代では50代になってもまだ半分。『変化』を恐れず、うまく対処できれば、もっともっとやりたいことができる。そんな可能性に満ちた時代に、私たちは生きている」ということを意識すべき、という提言は耳が痛い…


そして、これにどう対処するか。心構えとしては「『逃げる』という選択ができる人は、首尾一貫感覚が強い。具体的に動くからこそ、物事の真理がわかり、人は自分の未熟さを痛感する」「人は自分のダメな部分を知ることで成長する。『ダメな自分とステキな自分』の両方を受け容れ、『人は決して完璧でない』という真理を知ることで『もっと学ぼう』『もっと大人になろう』『もっと成長したい』と自分の可能性に期待する」「自己と他者を分離するのではなく、逆につながりを強化し、『納得できる自分』に近づくために精進するしかない。そのためには、『自分がどうありたいか?』という人生上の価値観、すなわち『意志力』が大事」のあたりがヒントになる。


具体的な処方箋としては「相手の話に耳を傾け、全体を見つめながらその存在を認め、声をかけて、赦す・または笑い飛ばす」「①筋トレとして挨拶を続ける②自分から部下に声をかける③人との間に垣根を設けず、カッコつけない」と述べる。確かに、これまた耳が痛い…取り組んでみるか。


全体を通して「孤独って周りは関係ない。自分で壁をつくってるだけ。自分が孤独感を規定する」「人を幸福にし、健康にするのは、温かな人間関係」という言及が非常に鋭く、根底にあると感じる。新書ながら、中高年層は読んで自制・自省することをお薦めしたい本だ。