世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】藤井薫「働く喜び未来のかたち」

今年89冊目読了。リクナビNEXT編集長にして、デジタルハリウッド大学明星大学非常勤講師である筆者が、転職市場から「未来のはたらく」を見ようとする一冊。


働く、ということについて「人生の中の多くの時を注ぎ、大切な仲間と共に、大切な何かを成し遂げようとする毎日の『働く』が、あなたのイキイキや、仲間のハツラツや、職場のワクワクに、深いところで繋がって、『働く喜び』に満ち溢れていることは、とても大切なこと」として、働く喜びが生まれる3C構造「Clear:持ち味の自覚や、やりたいこと、自分軸の自覚。Choice:持ち味を生かせる、仕事・職場を選択。Communication:上司・同僚との密なコミュニケーション、期待がある」と整理する。


現代社会は、ビジネスに大きな変革を迫っているが、これについて「ヒトと機械とデータが融合する第四次産業革命。いま私たちは、『能力の刷新』『仕事の再定義』、そして『人間であることが何を意味するのか』に対する挑戦的なアイデアを問われる」「これからは、『知識資本』『関係資本』『信頼資本』『評判資本』『文化資本』そして5つの資本を貫く『共感資本』という目に見えない資本が重要になる」と予測する。「失われるのはタスクであり、仕事ではない」は確かにそうだと感じる。
現代社会が移行していくサービス経済の特徴については「無形性、同時同場性、新規性・中小企業性」「『モノ作り』から『コト作り』、そして『意味創り』へ」と述べる。これによりゲームのルールは、「いままでは工業経済主体、ヒト・モノ・カネが資源、富を生むのは規模と効率、活躍するのは計画を遵守する力。これからは、サービス経済主体、ヒト・データ・キカイが資源、富を生むのは妄想と創造、活躍するのは夢を形にする力(物語力)」に変化し、「【企業主導】【一中心】【束縛】から、【個人主導】【多中心】【紐帯】へ、遠心力と求心力をどう切り結ぶかが試されている」と整理する。


そんななかで、AIが発達していく中で「競争優位の源泉は、これからは『多様な環境下での生産性』『目に見えないユーザー体験価値』『データからの新たな知の発見』」「人間にしかできない事は、人生の一回性、選択の不可逆性。そのことに身体性を持って向き合う事」に価値がある、とする。
この身体性というのは、コロナ禍の分断の中では(その前に書かれているながら)非常に思うところ多い。「人の存在を認識するには、最低2つの感覚要素が表現されていればいい。声+体、見かけ+体、匂い+体、声+匂い。やはり、私たちの<存在>の認識には、身体は欠かせない」「VR・ARで空間的・時間的に離れていても、その時、その場で関わる本人にとっては、一回限りの有限の瞬間。有限な身体を持つ人間だからこそ、その身体をもって表現せざるを得ない。受け止める側も、相手の身体をまず認め、その身体をもって伝えられる表現を受け止めないと、相手を共感しづらい」「『会ったほうがいい』とは、畢竟、同じ<一回性>を共存している<運命共同性>を重視しているからではないか」は、考えさせられる。


「『体験を設計する』ことで、ユーザーを満足させ、ファンを増やしていく」という仕事の仕方はまさに新時代だと感じる。
三浦雄一郎との対談から「基本的に人類というのは、不可能なこと、不確定なことに挑戦しようとするのが進化の原点」「体制の中に入った人間は、不確定な、あるいはあやしいにおいのするものは好まない。しかし、ちょっとした変化なしでは、新しいものは何も生まれない」、福岡伸一との対談から「時間の軸をとると、要素の関係性は次々と変わっていく。人間はどうしても因果関係を直線的につなげて、ものを考える。ただ、その因果関係はまさに時間を留めた時、その瞬間に見えるもの。だからある時点で因果関係が見えたからといって、恒久的な原理かどうかはわからない」「生物は常に環境に適応してきたように見えるが、実はその都度、環境にいったん負けている。負けて死ぬのではなく、そこから敗走するのは新しい可能性を見つける1つのチャンス」のあたりは心に響く。


未来の働くを考えるうえで大事な人類の宝物は「①ネテオニー:何歳からでも新しい自分を拓く後天発展・自由自在性。②機会:人生の偶然の出会いを計画的に楽しむ好奇心・柔軟性。③共同幻想力:ホモ・サピエンスが持つ目に見えないものの想像・信頼・共生力」とする。不思議なことではあるが、「計画された偶発性は、以下の行動特性を持っている人に起こりやすい。①好奇心②持続性③柔軟性④楽観性⑤冒険心」と言われると、このへんを大事にしたくなるな…


転職を考えている人だけではなく、今、そしてこれからの働き方を考えるのに非常に参考になるので、仕事をしている人は一読をしておくとよい、と感じる良書だ。