今年90冊目読了。ミサワバウハウスコレクション学芸員の筆者が、アート・ビギナーズ・コレクションの一冊として、ドイツ20世紀初頭の芸術・建築をけん引した特殊な学校「バウハウス」について、詳細に解き明かす本。
写真と図を使って、非常に詳細にバウハウスの概要と参画した人々、そして作品を紹介してくれている。もともと興味なんぞ欠片もなかったが、世界遺産検定を受ける中で「バウハウス」が世界遺産になっていることを知り、また最近美術方面にも少し興味が出てきたので、読んでみたら、なかなか理解が深まった。
で、そもそもバウハウスとは何だったのか。「バウハウスは、確かに学校だった。建築を最終目標に、諸芸術を統合しようとした。社会に積極的に関わり、工業のための原型をつくって社会を変えていく人材を養成しようとした。それだけではない。バウハウスは壮大な『試行』だった」「彼らがつくろうとしたのは、スタイルではなく、どうデザインするかというプロセスだった」というとおり、自由にチャレンジする学校、とでも言うべきもの。しかし、そこには超一流の芸術家や建築家たちが参画しており、とんでもない遠心力というエネルギーを持っていたことがうかがえる。故に、『こういうもの』と一言で定義するのはほぼ不可能と言ってもいいような多様な成果が表れている。正直、21世紀にこそ求められるようなものが、第二次大戦前にドイツで実現していたという事実に衝撃を受ける。
学長からして、ヴァルター・グロピウス、ハンネス・マイヤー、ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエと実力派揃いのうえに、講師にもパウル・クレー、ワシリー・カンディンスキーなどの20世紀美術をけん引する錚々たるメンバー。これは凄い。
そもそも、学校というわりに「バウハウスは新しいデザインをめざした造形学校であり、教師も新しい教育方法の模索を求められた。伝統や慣習、既成概念を一度捨てて、ゼロから試行錯誤を始めなければならなかった。したがって、バウハウスではさまざまな実験が行われていた。失敗を恐れず、また、失敗から多くを学ぶことで、また一歩、目標に近づいたのである」という実験精神は、まさに21世紀にこそ必要なものではなかろうか。
そこから生まれた作品(建築含む)は、非常に斬新かつクール。特に、バウハウス‐チェスセットの造形の美しさには圧倒される。ナイトの造形など、よくもまぁ考えたものだ。今なおスイスのネフ社で製品化されているというのがよくわかるほど、21世紀でも遜色なく通用するようなデザインを生み出している。
異質がぶつかり合い、既存の概念を壊してとにかく実験する。その取り組みの成果を今に伝えるバウハウスのエネルギー、本質的な強さを感じさせる。これは興味深く読んだ。
…それにしても。このシリーズは、多分「沼」だ。あまりにもマニアックに深い内容であり、確かに面白いは面白いのだが、ズブズブとマニア世界に引き込まれそうな恐ろしい力があるような気がする…