世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】田村潤「キリンビール高知支店の奇跡」

今年85冊目読了。元キリンビール代表取締役副社長の筆者が、自らの経験を踏まえて「勝利の法則は現場で拾え!」と提唱する一冊。


個人的に(というか亡父の影響で)キリンビールは好きなのだが、そもそも嗜好品で、かつイメージが強いビールという商品をどう売るのか、についての成功談は非常に興味深い。


ビールの営業ということから筆者が導き出した法則「成績が悪くなるほど、本社では会議が連日続き、営業の現場へはこれをやれ、あれをやれという指示が増えていく。そうなるとその指示をいかにこなすか、忠実に守るか、という受け身の営業スタイルに陥り、言われた事をこなすだけで精一杯となる」「競合する会社はどこでもやっていることにそれほどの差はない。それなのに、会社間で大きな差がつくのは実行力の差」「実行力のためには①主体性をもつ②結果を出すことにこだわる③基本を徹底する」のあたりは非常に納得感がある。


また、「現場に本質がある、人間の能力は無限大である」という信念に基づいて、「自分が考えて確信をもてることしか部下に言ってはいけない。総花的な営業はやってはいけない」と述べるあたりは確かにそうだが、多くの組織がそう陥りがち…


営業マンの動きがなぜ悪いのかについて「営業マンというのはいろんな情報を与えると動きが鈍くなる」「情報量が違わなければ、結論はそれほど変わらないはず。本社との情報量のギャップを埋めるのは現場のマター」と見抜いた上で、支店の役割を「会社の方針とその意味をよく理解したうえで、顧客からの支持を最大にするために、どの施策に絞り込むかを決め、効率的なやり方を議論し、現場ならではの工夫をし、実行する。その結果をチェックし、次に活かす」と定義するあたりも、さすがだと感じる。基本的に思想がシンプル。


リーダーシップへの洞察も深い。「リーダーはメンバーから信頼されないのが普通」「リーダー自身も現場を知っていることは重要。どんどん変化する今の市場で、どんな戦略をとるべきかを判断するには現場を知らねばならない」「考え方や方針ではなく、わかりやすく今日の仕事に直結する具体的なものに人は影響を受ける」「マネジメントのトップはふつう具体的な指示はしない。しかし、勝負時というのは具体的なディテールがすごく大事」と述べた上で、あるべきリーダー像を「①正しい決定を下せる②現場を熟知している③覚悟と責任感をもっている」と定義しているのは非常にわかりやすい。


人間の行動特性について「人間、一生懸命相談されると悪い気はしない。思いつきであっても、色々教えてくれるようになる」「結局、行動スタイルを変えることができるかどうかは、簡単に言えば視点や心の置き方を変えてみられるかどうかだし、人によっては身を捨てられるかどうかということ」と分析するあたりも、なるほどなぁと感じ入る


ついつい動きたくなりがちな世の中において「ブランド育成で重要なのは一貫性。個々のブランドがもつ本質的価値に軸足を置き、臨界点に達するまで、店頭から同じメッセージを伝えていく。営業の現場がブランドを育成していく」のメッセージは重い。新書ながら、非常に勉強になった。