今年86冊目読了。出版社で雑誌編集を経た筆者が、図書館をきっかけに変わる人々と、それを支える図書館の人を描き出した一冊。
畏敬する先達がお薦めしていたので間違いない、と思っていたらそのとおり。自分では選ばないが、本当に面白い小説だ。これは良い。
5つの話が交錯していくのも面白いが、何より図書館と本が果たす役割が楽しい。図書館ユーザーとしてもうれしくなる。
ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き書き。
「私は何に対して『すごい』って思うんだろう。特殊な才能とか豊富な知識とか?誰でも簡単にはできないようなこと?」「いつかって、いったい、いつのことなんだろう?」
「食うために仕事してるのに、仕事してるせいで食えないなんて、そんなのおかしいと思ったんだ」「私は今まで、自分をなんて粗末にしてきたんだろう。口に入れるものや身の回りのものをていねいに扱わないって、自分を雑にするってことだ」
「つながってるんですよ、みんな。ひとつの結び目から、どんどん広がっていくんです。そういう縁は、いつかやろうって時が来るのを待っていたらめぐってこないかもしれない。いろんなところに顔出して、いろんな人と話して、これだけたくさん見てきたから大丈夫って思えるところまでやってみることで、『いつか』が『明日』になるかもしれない」
「何が起きるかわからない世の中で、今の自分にできることを今やってるんだ」「理屈よりも、ワクワクするならその選択は正解なんだよ、きっと」「やることはたくさんあるけど、『時間がない』なんて言い訳はもうよそう。『ある時間』で、できることを考えていくんだ」
「何かを始める時にはそれが後から役に立つかどうかなんて、考えない。ただ、心が動いたら、それだけでトライする理由になる」
「たぶん、人生で一番がんばったのは生まれたとき。その後のことは、きっとあのときほど辛くない。あんなすごいことに耐えたんだから、ちゃんと乗り越えられる」
「人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかっま、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」
定年退職について「わかったこと。①65歳が思ったよりずっと若い②会社員でなくなった私はもう、社会から認識されていない」「仕事をしていないということは、休みがないということ。働くからこそ、休日は生まれる。前日のあの解放感を味わうことは、私にはもうない」と悲嘆しつつも「人と人が関わるのならそれはすべて社会だと思うんです。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも」という結論に至るあたりは含蓄がある。
その他、心に留め置きたいのは「僕は出来損ないじゃなくて、自分を活かせる場を間違えていただけだったのかもしれない」「書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ」のあたり。うーん、深い。