今年20冊目読了。ベストセラー作家が、ある人物の不思議な体験を通じて、人生の深淵を覗き込むように理解していく小説。
児童向けというが、これは凄く深い中身だ。心理学やら社会学やらいろいろな本を読みつけてきたが、その要素がすべてこの本で小説という形で表現されていることに驚愕した。
ストーリーもなかなか秀逸。ネタバレ回避でそこは書かないが、心に響くフレーズだけでも、物凄く核心を突いている。なるほど三谷宏治お薦めシリーズにハズレなし、か…
生きる辛さについて「みんな、美しくなくても、みじめでも、小型なくても、せっせと生きてるんだけど…」「みじめというのは、昼休みをひとりですごしたり、移動教室までひとりで歩かなければならないことをいう。となりにだれかがいるというのは、ふりむくたびにじんとなるほど、いちいち、うれしいことだった」のあたりは、非常に感じ入る。
世の中の認識について「この地上ではだれもがだれかをちょっとずつ誤解したり、されたりしながら生きているのかもしれない。それは気が遠くなるほどさびしいことだけど、だからこそうまくいく場合もある」「ぼくのなかにあったイメージが少しずつ色合いを変えていく。それは、黒だと思っていたものが白だった、なんて単純なことではなく、たった一色だと思っていたものがよく見るとじつにいろんな色を秘めていた、という感じに近いのかもしれない。明るい色も暗い色も。きれいな色もみにくい色も。角度次第ではどんな色だって見えてくる」と書くあたりは、まさに的を射ている。
大人たちの「私は必死だったのよ。何も得られないままに老いていく不安と闘いながら、今度こそ、今度こそ自分に適した何かと巡り合えるはずと、すがるような思いで探していたのです」「おまえの目にはただのつまらんサラリーマンに映るかもしれない。毎日毎日、満員電車に揺られてるだけの退屈な中年に見えるかもしれない。しかし、父さんの人生は父さんの人生なりに、波瀾万丈だ。いいこともあれば悪いこともあった。それでひとつだけ言えるのは、悪いことってのはいつか終わるってことだな。ちんまりした教訓だが、ほんとだぞ。いいことがいつまでも続かないように、悪いことだってそうそう続くもんじゃない」という心の叫びは、46歳の自分にとってもピッタリ当てはまる言葉で、筆者の慧眼に驚くしかない。
人生への捉え方「今日と明日はぜんぜんちがう。明日っていうのは今日の続きじゃないんだ」「この大変な世界では、きっとだれもが同等に、傷ものなんだ」「しばらくのあいだ下界ですごして、そして再びここへもどってくる。せいぜい数十年の人生です。少し長めのホームステイがまたはじまるのだと気楽に考えればいい」は、心が軽くなる。このくらいの心持ちで、向き合いたいものだ。
さらりと読めるが、奥深い。そして、教訓が散りばめられている。ぜひ、一読をお薦めしたい。