世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】ジャン・ハッツフェルド「隣人が殺人者に変わる時 和解への道」

今年139冊目読了。ルワンダ内紛の生存者と殺人者が、再び著者のインタビューを受け、双方の声に耳を傾けていく一冊。


これはシリーズものなので「生存者たちの証言→加害者編→和解への道」と読み進めるのが正解だな。


殺人者たちは、刑務所で「『君たちの罪深い配偶者に対して、心の平静を保ちなさい』『隣人や心に傷を負った人々との争いを避けなさい』『当局に対しては従順でありなさい』『まずは雑草のはびこる畑をきれいにしなさい』」という教訓を叩き込まれ、町に出てくる。


生存者たちからすると「フツが嘘をついていれば聴きづらいし、真実を話していても同じように聴くのがつらい」「私たちは心を開いて失敗するよりも、心を閉ざしているほうがいい。悲しみは口にせず、怒りは隠しておくのが一番」「私たちが彼らとコミュニケーションをとればとるほど、彼らは自分たちがどんなに良い人なのかを話すようになり、私たちは何故か安心してホッとしてしまいます。でも、それで私たちの怒りは鎮まっても、そう、怒り以外の不信感や疑惑はそのままなのです」というのはよくわかる。


他方、殺人者たちからみると「真実を話してツチを納得させることは不可能だ。詳しく全てを語ったところで、納得しない。深刻過ぎる事実は受け入れられないんだ。親戚をどのように殺したかを言おうとすれば、生存者は怒り出す。そして、話をはぐらかそうとすれば、怒ったのと同じだけ疑いを持つんだ」「俺たちが切り殺した数を競い合っていたことや、ツチが激しい苦痛の中で死んでいったことを物笑いの種にしていたことなど、そんな気晴らしを話すことなんてできない。だから俺たちは、話すことにフィルターをかけざるを得ないんだ」というのも、まぁそうなんだろうな・・・共感はできないけど。


そして、アフリカ独特の難しさも横たわっている。「白人たちは厳格で、よく組織化されており、見えないところでは実に狡猾だ。アフリカ人は大地に種を蒔き、育つものに満足する。白人は、その種の下を掘って、ダイヤモンドやリン酸塩のようなものを奪う。そして、ほんのすこしだけ、教程を持ち出すのだ」「誰がアフリカ人を自滅させてしまうかというと、一番はっきりしているのは欧米帰りのアフリカ人たちだ。彼らは間近に民主主義を見て、発展のための狡猾なトリックをすべて知っている。つまり、彼らは貯蓄をし、シックな装いになり、エレガントに会話をするようになる。そして帰国してからアフリカ人一人一人の中に潜む嫉妬をかき立てようと企むのだ。今後の利益を考えてね」「白人はアフリカの貧困や失望、無知について話しますが、真の問題は貪欲なのです。フツは何よりも、国を自分のものにしたり、ツチの土地を手に入れたり、あるいはツチの牛を食べるという欲望でやる気になったのです」あたりは、外から見てもわからない世界だ。


政府は、もちろんこの状況に介入しているものの、「ここには人のための正義はありません。国家組織のための正義しかないのです」「自分は生存者たちに赦されていない。赦したのは、国だけだ」「和解は政府の政策です。私たちは、人生の辛苦から身を守るために、それを忘れ、従い、受け入れるのです」という本音に触れると、その難しさを痛感させられる。


では、どうすれば和解ができるのか。「次の世代が自分たちよりうまく和解するだろうとは、信じていません。子どもたちは自分の身に起こったことや家族が話していることで、大きく傷つけられているからです。おそらく和解ができるのは、ジェノサイドの生き残りがすべていなくなってからのことです」「和解は信頼を分かち合うことだ。和解政策、それは不信感の公平な分配でしかない」あたりを見ても、その道のりは恐ろしく険しい。
「ある人の大切さは、眼で見て判断することはできない。その人が最後にあなたにもたらすものが失望か満足かはわからないんだ」「これ以上悩みたくない。毎日ずっと隠れるように暮らしています。出掛けていくのは、自分を理解し、冷笑されずに酒を飲んで話せる相手と会ったりするときぐらいです」という厳しい日々の中で「どうして幸せでいられるのか?理由なんてありません。ただ、自分がその日一日を穏やかに過ごすだけです」「楽しい生活ではなく、意味のある生活を送ることが、自分の傷を彼らに見せない力になっています」のあたりが鍵になるように感じる。


生きるということ、赦すということ。人間性の喪失の恐ろしいまでの仕業に、その後のことを考えるに至り、本当に複雑な思いしか残らないが、知るべきことであるのは間違いない。とんでもなく重たい気持ちになるが、読むべきシリーズものだ。