世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】加藤仁「宿沢広朗 運を支配した男」

今年8冊目読了。出版社勤務を経たノンフィクション作家である筆者が、早稲田大学で日本一になり、日本代表にもなったラガーマン住友銀行の取締役専務執行役員になりながらも早すぎる死を迎えた宿沢広朗の人生を描き出す一冊。


畏敬する先達が薦めていたので読んでみた。終盤までは、溢れる才気と努力する才能の両方に辟易するほど圧倒されるが、唐突な死という『ノーサイドの笛』が鳴らされると、本当の傑物を喪ったんだな、ということを痛感する。


とにかく、努力、そして心ということを大事にした人だ、ということは「運は努力で切り開いていけるものだ」「技術だけでは駄目なんだ。心も勝っていなければな」「たゆみない努力と、それによって生まれた実力と、それらを生かす恵まれた運、この三つがうまく相関した時に一つの大きな力となって相手に打ち勝つことができるのである。そしてそれがまた、自信とか、精神力とか、勝負強さなどといったものを生む源ともなる」のあたりにもよく現れている。


指導者としても日本代表を率いた経験から「本当に必要なことは『絶対に勝て』ということより『どうやって』勝つのかを考えて指導することであり、『がんばれ』というなら『どこでどのように』具体的にかつ理論的に『がんばるのか』指示すること」と言っているのは、自分も管理職の端くれとしては非常に耳が痛い…


リーダー育成については「『判断』と『決断』の能力の最も高い人の中からリーダーが育てられる」「ここぞというときに、いかに明確なリーダーシップを発揮できるか。いまがチャンス、いまがしのぎの場面という意識をチームに徹底させ、いざというときに全員の心をひとつにさせる力がリーダーシップ」「なにかスペシャリストとして持っていないと、リーダーになれない」のあたりが心に響く。


決断と意志についても「何かをやろうと思って本当に決意した時には、とことんすべてをやらないと実現しない。そのためには、相当決意を強く持たないとダメ」「指導者の中途半端な方針は無意味。決めたことについて、だいたいのことは、やろうと思えばできる。そこに間違いがないとは言えない。間違いが二回に一回ではダメだが、十回やって二回くらいならいい。肝心なのは、そこを怖がらないこと。思い切って決断したら、責任をもってやりとげる」と述べているあたり、圧倒される。


とにかく屈強過ぎてすさまじい限りなのだが、「人間にとってコンプレックスは、よりよく生きようとするばねになる」「自分に潜む弱さを知るがゆえに、凝っとしていることができず、つねに全力疾走して熱く戦い続けなければならない男であった」というあたりに寂しさが滲み出る…


とにかく圧倒される本。そんな中で、ネット全盛の現代において「役立つ情報はヒトから得られる」という宿沢の価値観は非常に大事なことを伝えてくれているような気がする。