世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊藤羊一「1分で話せ」

今年9冊目読了。Yahoo!アカデミア学長にしてグロービス経営大学院客員教授の筆者が、世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術を記した一冊。


もともと気になっていた本だが、たまたまある講座で筆者と知遇を得る機会があり、その熱量と分かりやすさに圧倒されたので、読んでみたら期待通り。これは素晴らしい。


なぜ、1分なのか。「ストーリーを考えようとするなら『何が大切なのか』、そして『どうしたら相手に伝わるのか』をきちんと考えることが必要。だからこそ1分でも伝わるような凝縮した言葉になる」という答えはなるほどと感じさせられる。


プレゼンの定義も「プレゼン力とは、人に『動いてもらう』力」「人を動かすには、スキルとしてロジカルに伝えることも大事だし、熱狂するマインドも必要。右脳と左脳に働きかける」「プレゼンは、動いてもらう『方向』を出すのが結論」「プレゼンというのは、相手の頭の中に、自分が伝えたいことの骨組みや中身を、『移植していく』作業」とされると、自分が如何に理解していなかったかを痛感する…


伝えるための基本事項として「自分の話を聞いてほしいなら、まず、『みんな人の話を聞いていない』ということからスタートしてほしい」「相手は誰か?どんなことに興味があるか?を考える」「動かしてなんぼ、相手が動くためにできることをすべてやりきる。そのためには時間を惜しまない」を念頭に置くように、との解説はなるほど納得だ。


1分で伝えるためには「伝えようとすることの骨組み、つまり、結論と根拠のセットを構築する」「結論を出すために自分に問う。黄金の質問は『だから何?』『ファイナルアンサー?』『本当か?』」「自分の伝えたいことを、一言のキーワードで表す」としつつ、「練習することによってでしか、伝える力は上達しない」と、その準備の必要性を説く。


伝えるための心構えとして、まず「スライドは『読まずに頭に入る』ことを目指す」「中学生でもわかるレベルの言葉しか使わない」と述べる。
そして、伝えるためには「イメージを描いてもらうために『ビジュアルを見せる』か『たとえば』で具体例を示す」とする。具体的手法の「ピラミッドを『結論』→『論拠』→『たとえば』の3段で作る」「聞き手に想像を膨らませてもらうには、聞き手の色々な体験を、自分が伝えたいイメージと組み合わせてもらう。具体的には『想像してみてください』『あなたがもしこの世界を経験するとしたらどうでしょう』と促し、『素晴らしいと思いませんか』と方向感を伝える」は実にわかりやすいと感じる。また、人前で話すときのポイントとして「①視線:しっかりと聞き手を見る②手振り:多少、動きをつける③声:『相手と対話するように』声をかける④間合い:話の区切りで、普段より3秒ほど長く、間をとってみる」など、実に実践的だ。


技術論は述べるも、最も大事なのは「あなたが心の底から強く思うことを、情熱をもって自分の存在をかけて語るからこそ、聞き手は心が動かされ行動に移す。そこまで思えない人は、思いがこもっていないプレゼンによって相手が動くレベルの仕事しかできない」「一語一語に思いを込めていくと、声の調子は必ず異なってくる。思いを込めていかないと、言葉が単なる『記号の羅列』になってしまう」だと、『強い思い』を強調するあたりは、実際に筆者に会って強く感じたところであり、納得だ。


話が伝わらなくなる原因として「たくさん話したくなるのは、調べたこと、考えたことを全部伝えたい!『頑張った!』と思ってほしいという話し手のエゴ」「余計な話としては①プロセスを話す②気を遣いすぎる③自分の意見とは違うことを言う④笑いを入れる」のあたりは、反省しきり…


そのほかにも「『理解してもらう』というゴールがおかしい。伝える側が、聞き手に『理解したうえで、どうしてほしい』のかを必ず考えなくてはならない」「『考える』とは、『自分の中にあるデータや自分の外にあるデータを加工しながら、結論を導き出すこと』」など、非常に有用な言及が多い。


平易な文章ながら(いや、だからこそ、だろうか)非常に理解しやすい。あとは実践するために、どう訓練を重ねるか、ということだろうな。これは一読をお薦めしたい良書だ。