世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】三谷宏治「一瞬で大切なことを伝える技術」

今年66冊目読了。金沢工業大学虎ノ門大学院教授、早稲田大学ビジネススクール客員教授グロービス経営大学院客員教授を務める筆者が、「論理的な人になれる世界一シンプルな思考法」を提案する一冊。


筆者は、ロジカルシンキングの重要性は認めつつも、それが複雑すぎて使いきれないということに問題意識を持ち「『重要思考』=『重み』と『差』」というシンプルな公式ですべてを語りつくそうとする。これは、無駄な手法論ではなく、シンプルに本質を突いていると感じる。


そもそも、「ヒトの思考回路はかなり曖昧かつ非理性的。実は『意識的、理性的に考えてモノゴトを決める!』なんて1日に何回もない」ので「言葉そのものが、曖昧。つながりが原因なのか結果なのか相関なのかが曖昧。何が前提で何が結論なのか、曖昧。一番ダイジなコト、が曖昧」というコミュニケーションに陥ってしまう。


そんな中で、ロジカルの超基本として「塊」と「つながり」であるとして「塊をはっきりさせるには、程度と範囲に注意。つながりをはっきりさせるには、向きと太さに注意」と留意点を述べ、「そのコトがダイジかどうかはその付加価値やコストでの『重み』でハカれる」とする。
その重要思考の実践方法として「何か策を思いついたら、すぐもう一度『重み』はどれくらいか、よりダイジなことのために役立っているかを考えよう」と提唱するが、これは相当トレーニングが必要だろうな…ただ、手法がシンプルなので、その点は取り組みやすそうだ。


よく悩んでしまう自分にとっては「悩みは感情で、脳の作用の一つ。思考が堂々巡りをして前に進まなくなっていることを、脳が私たちに教えている(たぶん)。そしてそれが危険で無益であることを伝えるために、悩みはこんなにツラい感情の形をしているのだろう。でもそれが重すぎるがゆえに、ヒトはすぐその悩みの海に沈んでしまう」と定義したうえで「言語化するだけでも、悩みは減るが、伝える努力で考えが整理される」と処方箋を出してくれるのは、非常に心理的負担が減って助かる。


言いたいコトを相手に伝えるには「丁寧に短いメッセージを、短冊に書き、それを読み上げながら相手に渡すイメージ」で「5ワード以下で区切りながら、短く話す」「言い直さない」「相手に結論を言わせる」をポイントとして挙げる。
他方、相手の言いたいコトを理解するには「相手に『重要思考』をしてもらい、それを伝えてもらう。そのために、受容(頷き、アイコンタクト、あいづち)・明確化(繰り返し、質問)・確認(言い換え、要約)で聴き取る」「相手の話に潜む、ダイジなコトや面白い差を『発掘』するのが聴くことだと割り切る」ことを薦める。


価値を認めるにあたっても、誉めるに際しては「相手のダイジなところで、相手の他との差(卓越度合い)を明確に示す。それがほめるということ」、お客様への価値提供では「『重要思考』で言えば、お客様として一番『誰』がダイジで、そのヒトたちにとってダイジなコト(価値)は何かを考え、その価値を『差』のある方法で提供する」と整理。


かみ合う会議の5つのルール「①プレゼンターは簡潔な文章でまとめ、みなは終わりまで聴く②質問する前にみなで3分考える③勝手に話さない、ダイジなコトからずらさない④賛否を示し、『コメント』などに逃げない⑤決め方を決めておき、雰囲気で決めない」は、そりゃそうだが、実践は難しいなぁ…としか思えない…


「百聞不如一見 百見不如一考 百考不如一行」という言葉を引用して「百万回聞いたって1回の試行錯誤に及ばない」と読み下しているのは、なるほどなぁと感じる。確かに「体得」することでしか理解できない、というのは体感としてよくわかる。


最後に出てくる「子どもたちの未来は、大人が『教える』ものではない。子どもたちが自ら、切り拓いていくもの」は、子育て世代の一人として、心に刻みたいところだ。


全般的に、シンプルでわかりやすい。かつ、その実践しやすさも優れていて、必読の一冊だ。これはいい本を読むことができた。