世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】三浦崇宏「超クリエイティブ」

今年24冊目読了。The Breakthrough CompanyのGO代表、クリエイティブディレクターの筆者が、「発想」×「実装」で現実を動かすことを提唱する一冊。


筆者は、クリエイティブということについて「クリエイティブとは、非連続な成長を促し、新たな価値を生み出す多面的な思考法」と定義して「クリエイティブは、価値の『生産』と価値の『発見』」「クリエイティブの本質は演出的なスキルにあるのではなく、『革新的な変化のきっかけをつくり出す』思考法」「クリエイティブで取り組むべき喫緊の課題とは、高度経済成長期に代わってこの国を駆動する新しい『コアアイデア』の開発」と述べる。
そのうえで、超クリエイティブというものについて「①クリエイティブの力を、従来のイメージを超えて、汎用性の高い思考法として再定義している②クリエイティブの核心を『コアアイデア』という概念で再定義している③クリエイティブの役割を『発想』と『実装』の両方を含んだ『現実を動かす』力として捉えている」と、従来の考え方との違いを強調する。


経済の流れを俯瞰し、「昭和は国家と規模の時代。平成は企業と機能の時代」と読み解いたうえで「企業の成長が非連続であることが前提になった時代に突入したため、企業に求められているのは、社会の変化を予測し、対応していく力ではない。予測不可能性を踏まえ、先んじて自らが変化し、社会変化のきっかけになっていく力」と提言するあたりは、さすがだなぁと感嘆する。


「現代はスマホネイティブ。個々人がメディアを持って発信することができるという人類史上はじめての時代が訪れている」という時代において「人は、自らが接する情報に対して、主体的に反応して発信するほうが、その商品やサービスに深くコミットしていく」と指摘。「令和は、企業であっても個の『思想』や『美学』から出発したものが強い輝きと、共感を呼ぶ時代」であるため、クリエイティブに必要な要素として「『モラル』と『教養』という基礎力があり、そのうえに不可欠な『戦略』『表現/アクション』『人間力』の3要素が求められる」とする。教養とは「知識の積み重ねによって物事を大局から思考・判断できるストック型の知識であり、総合的に社会を俯瞰できる知性」と定義し、なぜ教養が必要なのか、ということは「教養とは、人類の思考のアップデートの履歴であり、それを知っているかどうかの差は非常に大きい」「誰かにとって新しい体験を与えられる表現を行うには、まずもって、それが新しいか古いかを判断できなければならない。そのためには、過去の歴史、その履歴をある程度は知っておかねばならない」「古典として残るものは、普遍的な人間感情、人間社会の真実がきわめて解像度高く表現されたもの」と説明する。これは確かに唸らされる。


新たな価値を生み出すアイデアであるコアアイデアは「『本質発見力』×『世界の複数性への理解』から生まれる」とし、「企画を考えるときに企画から考えてはいけない。必ずコアアイデアから考える。そのブランドの、その企業の、そのカテゴリーのあるべき本質的な姿、理想のあり方を考えて言語化する。本質から生まれたコアアイデアのある企画が人の心を動かし、社会に届く」と断じる。
では、どうすればよいか。「直感だけでは現実的な仕事において脆弱で、むしろ、ロジカルな思考やマーケティングを積み重ねる」「思考のジャンプには屈伸による凝縮が必要。それは、自分自身の感覚に対する内省」「本当に自分が感動するか、自分の行動が変わるか、自分がその企画にワクワクできるか、自分自身と思いっきり向き合って、自分が心から信じられる企画を、自分自身の感情・感覚の中からつかみ取る。この最後の過程をクリエイティブジャンプと呼ぶ。思いつくというよりも思い返すのに近い思考の体験かもしれない」「生き残るのは、大きな欲望を抱き、それを持ち続けた人。個の欲望を突き詰めた先には社会化があり、クリエイティブもまた社会課題の解決へと向かう」と述べる。


コアアイデアの生み方についても「ものごとの本質を見抜いて社会の中での意味を捉えなおす」「『AはBである』という本質に根差した変化のきっかけを発見するには①『社会』に対してどんな意味があるか②『未来』で広がったらどうなるか③『自分』にとって、あるいは熱狂しているユーザーの人生にとってどんな意味があるか、のベクトルで考える」「本質を掴むもう一つのアプローチは『抽象化のプロセス』。固有名詞をのぞく、時系列を無視する、行為(商品)と現象の関係性だけにフォーカスする」「複数の視点への多面的考察は、同時に『みんなが共通して持っている欲望』を発見する力につながる。時代の空気とはあくまで個の総和なので、こういう立場の人はどう感じて生きているのだろうと、個々の視点、感情をできるだけ具体的に身体的感覚で感じ取る必要がある」「人間の感情への解像度を高めるには、①己の価値観を揺さぶられる人生経験をできるだけ積む②異常な量のコンテンツに触れる」「コアアイデアに必要なAAAはAnger(怒り、社会の理不尽や不合理に怒る)、Alliance(連帯、あらゆる場所にいる仲間たちと結託する)、Accident(事件、既存のルールや常識を超えて事件を起こす)」「革新的なコアアイデアは単独の深く沈潜する思考、もしくは少人数の本質発見力の高い者同士の中から生まれる」などを提言してくれる。


チームへの考察も、非常に面白い。「クリエイティビティの高い、良いチームとは『アウトプットが個の能力の総和ではなく、積になるチーム』」と定義し「チームビルディングのポイントは①チームが持つ機能と、チームに求められている目的を一致させる②チーム内における人材の配置を正しく行う③チームの空気を気持ちのよいものにする」「人がその組織で働くことを意思決定する際の条件は『報酬』『環境』『思想』」「チームの空気作りは挨拶と『調整仕事』から」「会社とはステイタスを得る場ではなく、個がいかに動くか、いかに生きるかのスタンスを示す場。その総和が会社だとしたら、その組織がクリエイティビティを保つためには、個人の欲望を無視しないことが重要」とは、なかなか普通に暮らしていたら持てない着眼点ばかりだ。
リーダーのあり方としても「サブリーダーとひととき横に並びながら、視点と思想を共有する」「スキを見せ、その部分に関しては自分のほうが勝っている、あるいはリーダーの弱点は自分が支えられると、現場のメンバーたちが思えたほうが、チームとしてうまく機能する」という観点は興味深い。


イデアの検証に必要なポイントとして「①GOAL(プロジェクトで達成すべき目標)②Vision(企業/ブランドのあるべき姿)③Fact(武器になる企業/ブランドの事実)④Moment(着目すべき社会の変化)⑤Insight(顧客の心情)⑥Catalyst for Change(変化のきっかけになる考え方)⑦Rule(この企画が成功する内外の条件)⑧Action(実際の活動)⑨Flow(実際の段取り)⑩Image(PRの予想)」とする。
個別の説明の中で「ゴールとは何らかの新しい価値をともなった『変化』でなければならない」「ブランドとは①製品価値を濃縮した識別記号②価格を超えた品質保証③習慣を生み出すキーワード」「人々の心の中に潜在的にあった意識は言葉の力で顕在化し、社会の変革を促すきっかけとなる」のあたりは、納得性が高い。


ポストコロナの変化は「消費意識:エッセンシャル消費、ブランディング:ステイタスからスタンスへ、広告:プロモーションからブランディングへ、メディア:Nの最大化からNの細分化へ、社会の変化:衛生産業と超距離産業の確立、イベント:空間の共有から時間の共有へ、売り場:ショップからスタジオへ、個人の生き方:起業家/クリエイター/政治家等、キャリア:ヒエラルキーからコミュニティへ、クリエイティブ:発想から実装へ」と予測。「自分はどんな価値観を持って生きているのか、社会の課題に対してどんなスタンスを持っているのか、世の中に何を生み出したいのか。クリエイティブなあり方がそのまま個人のブランディングに直結する」として「どんな働き方をするか、社会で何がしたいのか、生活で一番大切にするものは何か、自分自身でデザインする必要がある」「”超クリエイティブ”とは仕事術に見せかけた、あなたがあなたの人生と闘い、意志を持ってそれを乗り越えて行くための技術」と厳しく突きつけてくる。


わび・さびが、今なお日本文化を象徴する概念であり続けているのは「”引き算”によって成り立っていることと、その世界観がその時代その時代の資本主義、勝利主義、加速主義のアンチテーゼとして機能し続ける特徴をそなえているから」と読み解く。「会いたい気持ちは人を動かす」「センスとは経験知からくる咄嗟の判断力」「SNSやマスメディアが反応するのは、『事件』『実験』『意見』の3要素」などの分析も面白い。


とにかく、そこここに拾いたいフレーズが満載で、非常に面白かった。全てを信じるわけにはいかないが、参考になるところは多く、ぜひ、一読をお薦めしたい。