世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】河野克俊「統合幕僚長 我がリーダーの心得」

今年61冊目読了。海上自衛隊から統合幕僚長まで勤めあげた筆者が、自らの自衛隊46年間を振り返りながら自衛隊と日本の関係、国防、リーダー論を語りつくす一冊。


かつて自衛隊が「人殺し組織」と言われていた時代から、災害時などに頼りになる存在になるまでの歴史を振り返る流れは、日本の国防・国策について改めて考えさせられる。「防衛問題とは一部の軍事マニアのものではなく、常識論だ。例えば、自分は何かあったら友人に助けてもらうが、友人に何かあってもお金は出すが助けないという友人関係は常識的に有り得ない。スポーツでもそうだが、守るだけで攻めることをしなければ試合には勝てない。これも常識だ」という言葉は、まさに身体を張って筆者が体験・体現してきた中身であり、今一度かみしめる必要を感じる。


そのリーダー論は、実践に裏打ちされているので、非常に納得できる。「部下が迷った時に何らかの指示を与え、自分の立場、責任を明確にせよ」「指揮官しか撤収あるいは作戦中止を決断できないし、決断しなければならない。『引く』決断はある意味『進む』決断よりも難しい」など、抱える組織の規模も重さも全く違えども、本当にそうだなぁと感じる。
「トップは腹をくくる覚悟が必要だ」「司令官にとって一番重要なのは『いつでも上機嫌でいる』ことと『朗らかな気分を維持できる』こと」「『資料は少なく』『会議は短く』『電話も短く』」のあたりも、非常に納得できる。そうでないトップに仕えると、非常にしんどい。しかし、自分はこれを実現できているか?と言われると、小さい組織ながらも、全く自信がない…反省だ。


危機管理についても、さすが自衛官。「危機になるとトップは不安にかられ、どうしても自分の周りに人を集めたくなる誘惑にかられる」としつつも「複雑怪奇はけがの元」と戒め、「①情報発信の一本化②危機対応の体制はシンプルであるべき③トップの顔を見せる」と断じる。


安易な改革についても警鐘を鳴らす。「様々な改革、改編をやる際は重々注意しなければならない。ある配置につくと何らかの後世に残る業績を残したいという誘惑にかられる場合がある。もちろん変えるべきものは変えなければならないが、その際にも『伝統』を踏まえることが重要だ」「新機軸を打ち立てることは、伝統を壊すことではない。伝統の上に打ち立てるものだ。伝統を大切にし、継承している組織は土台がしっかりしている」は、つい忘れがちな視点だ。大事にしたい。


人生訓として「自分の力でどうしようもないこともこれからの人生には確かにある。しかし、人生どう転ぶか分からない。常に前向きに、諦めずに進めば必ず道は開ける」「人の覚悟とは本当は大上段に振りかざすものではなく、静かなものだ」「知る者は、好んでやる者には及ばない。好んでやる者は、楽しんでやる者には及ばない」のあたりも、非常に重い。


読書好きの端くれとしては「読書をしている人が必ず正しい判断をすると言えば、それはもう宗教だ。そんなことはない。しかし、読書を通じて論理的思考力を身につけた人が正しい判断をする確立は、していない人に比べ格段に上がると思うし、判断の厚みが違ってくる」という言葉を胸に、精進したい。