世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】長浜浩明「日本人ルーツの謎を解く」

今年60冊目読了。35年間にわたり建築の空調・衛生設備設計に従事してきた筆者が、その理系的な思考によって、過てる縄文・弥生観に終止符を打つことを目指した野心作。


「ぜんぜん門外漢の人が専門家に挑むんかい!」と思って読み始めたが、あにはからんや、実際に筆者の説のほうが説得力がある。もちろん、自分で原典にあたっているわけではないので、安易に全面賛成をすることはできないが、「それまでの通説にとらわれる」という心理学的にも納得のいく『陥りがちな罠』ということを考えると、案外、門外漢のほうがクリアに問題に向き合えるのかもしれない。それは、播田安弘「日本史サイエンス」を読んだ時にも感じた。


そもそもの通説に対し「『日本人の先祖は縄文人ではなく渡来人である』なる説は、明治・大正期のお雇い外国人モースらによってレールが敷かれた」と一太刀を浴びせ、「如何に高名な作家や知識人でも、明治この方、世に流布されてきた常識や定説というウロコを剥がすことは出来なかった、ということだろう。長年に亘る学校教育や世の中の常識に呪縛されていたのかもしれない」と断じる。


また、とにかく筆者はよく噛みつく。「わが国では、『誤・偽』をより完全に注入した『愚』ほど優秀と見なされ、『誤・偽』を『正・真』としてより完全に受け入れた『愚』が長じて指導的立場に就く場合が多い。そして時に彼らが学者や教師に、学長や総長に、教科書の執筆者や検定官に、知識人や文化人に、作家や評論家に、記者や論説委員に、政治家や役人になって行く」「NHKは、歴史教科書の記述と同じ言葉を用い、定説である『大量渡来』に迎合し、専門家の反論を封じつつ、事実を隠し通したことになる」など、読んでて、何もそこまで言わんでも…という気にすらなってくる。


筆者の述べる「縄文人は日本人と韓国人の祖先だった!」「渡来人はわずかしか来ていなかった」という主張を明確に肯定できるだけの検証はしていないが、少なくとも、筆者の調査・判断スタイルは非常に優れていると思う。
特に共感できるのは「先入観に囚われることなく、最新の正しい事実を把握していなければ誤った理解へと迷い込んでしまう」「ある分析手法が如何に科学的であろうと、一連のプロセスを統計学の作法に従って正しく扱わないと、誤った結論に至ることもあり得る」「数値で表せば客観的な判断基準になるわけではない。裏付けゼロで、率を少し変えれば答はどうにでも動くような計算に、客観性などあろうはずがない」のあたり。正直、縄文・弥生という話しではなく、2021年になってもなお迷走する日本のコロナ対策は、まさにこれらの言葉に語りつくされるように感じる。


かなり文章が攻撃的で、けっこう読むのがしんどいが、なかなか勉強になった。面白かった。