世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】山崎明「マツダがBMWを超える日」

今年81冊目読了。マーケティング/ブランディングコンサルタントの筆者が、クールジャパンからプレミアムジャパン・ブランド戦略への移行を提言する一冊。


SNS上で友人が薦めていたので読んでみたが、これは新書とは思えないパワーがあふれている。確かに、こういう視点を持たないと、日本は沈むばかりだよな…


ブランドというものを「大量販売を狙う一般向けのマスブランドと、いわゆる高級ブランドがある」「マスブランドのブランディングは、『認知と好感度の獲得』とほぼ同義。プレミアムブランドは『自分がどんな人なのか』を表現することに直結する」「プレミアムブランドは単なる『もの』ではなく、その人のエモーション、人生そのもの」と定義。
そのうえで、プレミアムブランドを「『心の満足』を提供することこそ、マスブランドとは違う、プレミアムブランドの真価」「プレミアムブランドに重要なのは特別感や憧れ感といったブランドイメージで、ものの優劣より、どのブランドであるかのほうが圧倒的に重要」だと述べる。


ブランドの力については「ブランドが客をリードしていく。自ら信ずるものを作るということが基本にあって、客はそれに共感し、自分の価値観と重ねてそのブランドのファンになる」「ブランドに関わる人自身がブランドの『信者』でなければ、客を『信者』にすることはできない」と指摘。
だが、そこに至るのは簡単ではない。「客から見れば、自分はあくまで特定のブランドの客だという意識。だから、その親会社の客になっていることを意識させないよう細心の注意を払う」「顧客が『その価格に見合うステータスがある』と感じることができれば、喜んで金を払う。その原価はあまり関係がない。」「品質や性能が向上した分は値上げし、コストダウン分は収益につなげる。そして得た利益をブランディングマーケティング活動に回すことでブランドイメージをより向上させ、次の利益につなげていく」のあたりは日本では確かにない発想だな。


プレミアムブランドであるためには「強力なプレミアムブランドの強さの源泉は、そのブランドの持つ信念、方向性の明確さである。それに基づいて製品は作られているから、ブランドの存在意義はいっそう明確になる。コミュニケーションなどを通じてそれらが社会に浸透すると、そのブランドの社会的な意味(社会におけるポジショニング)もクリアになってくる」「強力なプレミアムブランドは、その存在意義と製品作りの方向性、コミュニケーションの内容、売り場の雰囲気などが統一されていてブレがない」「プレミアムブランド戦略を実行する場合、あくまでグローバルの視点で展開すべき。国内だけでは需要は限られてしまい、プレミアムブランドとしてのうまみのある経営につながらない」のあたりを理解しないといけないんだろうな…


日本の現状「日本では品質の高い製品を安価に提供することで圧倒的なシェアを得ることに成功し成長した企業がほとんどなので、『良いものをより安く多くの人に』ということが正義であるかのような理念が日本企業には染みついてしまっている」「高級品であっても本物のブランド製品よりもお買い得な『安くて良いもの』にすぎないのが日本製品の現状」「消費の二極化で、売れているのは高級品か低価格品。日本製品はほとんどの場合、『低価格品』の市場に属してしまっている」は、まさに失われた30年で固着してしまった価値観だな…
だからこそ「『ものの良さ』だけで高いレベルの『心の満足』を与えることは難しい」「日本企業は、ブランド価値を曖昧にしか定義せずに次から次へとブランド(のようなもの)を立ち上げてしまい、十分なコミュニケーション予算をつけずに展開し(つけたとしても立ち上がり時期だけ)、結果あまり浸透せずにブランドとして分けている意味がない(立ち上げに費用をかけただけ無駄)という結果に陥っている」「長期的なブランドを核とした戦略の有無こそが、欧州プレミアムブランドとの大きな差を生んでいる要因」に気づかなければならない。
さらに、そちらにどう舵を切るか、には「ブランドイメージを築き上げるのはあくまでもの作りの思想とそれを体現する製品である。抽象度の高いコミュニケーションが通用するのは、社会的にブランドイメージが確立した後の話」「ブランドとは経営そのもの。ブランド戦略はトップマネージメント」という筆者の指摘が鋭い。


日本はどうすればよいのか「人の手による匠だけでなく、テクノロジーの匠も必要」「日本製品の方向のヒントは、海外で共鳴する人の多い『ZEN(禅)』という様式」「現在の日本製品は高品質ではあるのだが、佇まいに欧米人の期待する『日本らしさ』がない。それゆえ、あえて選ぶ理由を見出してもらえない。機能だけで選ぶマスプロダクトはそれでもいいが、高級品は『あえて欧州製品ではなく日本製品を選ぶ』ためのはっきりとした理由が必要」「欧州製品に追いつけ追い越せ、という価値観は、もう過去のものにするべき。これからは、堂々と日本製品の独自価値を追求し高めるべき。そして日本初の、欧州のものとは異なる世界観のプレミアムを目指すのであれば、ネーミングは日本由来のものであるべき」というのは慧眼だと感じる。もっと、自分らしさに誇りを。そこがポイントなのかもしれない。


車にも時計にも思い入れのない自分にとっても、これは非常に勉強になった。新書と侮れないハイレベルな本だ。