世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】千葉雅也「現代思想入門」

今年66冊目読了。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授の筆者が、現代思想をわかりやすく読み解く一冊。


畏敬する先達がお薦めしていたので、難しさは覚悟の上で読んでみた。なるほど、これは勉強になる。だが、理解できたかというと疑問…


現代思想について、筆者は「現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち『差異』に注目する」「現代思想を学ぶと、複雑なことを単純化しないで考えられるようになる。単純化できない現実の難しさを、以前より『高い解像度』で捉えられるようになる」と述べる。


デリダについては「何か『仮固定的』な状態とその脱構築が繰り返されていくイメージ」とし、脱構築の手続きは「①二項対立において一方をマイナスとしている暗黙の価値観を疑い、むしろマイナスの側に味方するような別の論理を考える②対立する項が相互に依存し、どちらが主導権をとるのでもない、勝ち負けが保留された状態を描き出す③プラスでもマイナスでもあるような、二項対立の『決定不可能性』を担うような、第三の概念を使うこともある」である、とする。


フーコーについては「これが正常でこれが異常という分割線は、文脈によって違い、つねにつくられたもの。『正常なもの』というのは基本的に多数派、マジョリティのことで、社会で中心的な位置を占めているもこ。それに対して、厄介なもの、邪魔なものが『異常』だと取りまとめられる」「人間がその過剰さゆえに持ちうる多様性を整理しすぎずに、つまりちゃんとしようとしすぎずに泳がせておくような社会の余裕を言おうとしている」とその特徴を述べる。


現代思想の源流であるニーチェフロイトマルクスの共通点として「19世紀までは基本的に、知の課題はいかに世界を理性的な秩序にきちんと捕捉するかだった。しかし、むしろ非理性的なものの側に真の問題があるという方向転換がなされる」「『ヤバいものこそクリエイティブだ』という20世紀的感覚を遡るとこの3人になる」を挙げる。


ラカンについては「大きく3つの領域で精神を捉えている。第一の『想像界』はイメージの領域、第二の『象徴界』は言語の領域で、この二つが合わさって認識を成り立たせている。第三の『現実界』は、イメージでも言語でも捉えられない、つまり認識から逃れる領域」「混乱したつながりの世界が言語によって区切られ、区切りの方から世界を見るようになる」と、その曖昧な部分への切り込みと視座の転換をわかりやすく読み解く。


現代思想の原則として「①他者性の原則:新しい仕事が登場する時は、前の時代の思想、先行する大きな理論あるいはシステムにおいて何らかの他者性が排除されている②超越論性の原則:先行する理論では、ある他者性Xが排除されている、ゆえに、他者性Xを排除しないようなより根本的な超越論的レベル=前提を提示する③極端化の原則:排除されていた他者性Xが極端化した状態として新たな超越論」「現代思想では、物事の意味をひとつに固定せず、意味が逸脱し多様化することを論じる」は、そうなんだ…と驚くばかり。


本当に難解な本ではあるが「能動性と受動性がお互いを押し合いへし合いしながら、絡み合いながら展開されるグレーゾーンがあって、そこにこそ人生のリアリティがある」「身体の根底的な偶然性を肯定すること、それは、無限の反省から抜け出し、個別の問題に有限に取り組むこと。世界は謎の塊ではない。」のあたりは核心を突いているなぁと感じる。