世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】反田恭平「終止符のない人生」

今年67冊目読了。指揮者・ピアニストにして第18回ショパンコンクール2位の筆者が、今までの半生と今後の音楽界を展望する一冊。


音楽には全くセンスがないものの、何かの書評でお薦めされていたので読んでみたら、なるほどこれは超良書だ。


筆者の背景にある「人間は簡単に死んではいけない。何があろうと一縷の望みをかけて希望にすがりつき、生きて生きて生きまくるべきなのだ。涙が枯れ果てるまで号泣し、慟哭しながら、友だちと『オレたちはあの子の分まで長生きしような』と約束した」「たまらなく悲しい記憶、体が引きちぎられるほど苦しい経験もひっくるめて、ピアノを演奏するための滋養として自分の体内に取り込んでしまえばいい。若くして亡くなった彼女の無念を、全身全霊で一音に注ぎ込もう。そのことが、亡くなった彼女への何よりの追善回向になる」は、かなり衝撃を受けた。人生と真剣に向き合う心持ちに、己の至らなさを痛感する…


そして、その考えが「人と人との出会いは、『地上の星座』を織りなすように数珠つなぎで広がっていく」「誰がどこで聞いているかわからない。どんなに小さなコンサートであろうが、2000人が入る大ホールのコンサートであろうが、絶対に手を抜いてはならない」「極端な話、僕は『いつ死んでもいい』という覚悟で昔からずっとピアノを弾いている」「愚直にして真摯な姿勢を失った者は、人生のチャンスをつかみ損ねるのだ」「憤り、やるせなさ、寂寥感、苛立ち、歓びと多幸感、すべての感情は音楽の滋養となる。人の生き方に『これが正解だ』と断言できる道なんてないのと同じように、音楽に王道も正解もない。僕は永遠の求道者として、正解の見つからない問いと向き合い続けたいのだ」「僕は学生時代から一貫して義理と人情をもって相手とつきあっている。学生時代の友人であろうが、名だたる経営者であろうが、有名な音楽家であろうが、僕は相手に仁義を尽くすように努めている。そうすることで、思いが通じる相手は必ず現れるのだ」という姿勢に結びついているのだろう。


また、挑むということについての「誰もが生涯を通じて、真剣に対峙するべき大事な試練が10年に一度は訪れると僕は思っている」「小さい頃から思い描いてきた『ショパンコンクールのファイナルでコンチェルトを弾きたい』という夢を、絶対にかなえたいと思ったのと同時に、挑んで後悔するよりも挑まないで後悔するほうが一生苦しいだろうと思った」「結局のところ、最大の敵は外部ではなく、自分の心の中に潜んでいるのだろう。自分の心の中に潜む弱さを打ち破り、要らぬ雑音を取り払って徹底的に没入する」のあたりは、本当に心を揺さぶられる。
他方、筆者は専門馬鹿ではなく「ピアノでもヴァイオリンでも楽器の練習ばかり長時間やっている人は、演奏の引き出しが少ない。音楽と関係ないことに平気で時間を費やし、多趣味な人ほど演奏の引き出しが多いものだ」とも言及している。


音楽界と日本の今後については「パンデミックのせいでエンタメ業界が総倒れになってたまるものか。その執念が、多くの人々の心を動かした。暗闇の中に身を投じる精神が、パンデミック時代のエンタメの可能性を切り拓いたのだ」「地方都市の隅々にまでインフラが整い、世界一安全。今後はソフトパワーだ」と述べる。


意外だなぁと思ったのは「一発で存在を認識してもらおうと髪の毛を伸ばした。髪の毛をオールバックにして額を表に出し、後ろで結わえる『サムライヘア』にしたのだ。ステージ上で大勢の審査員や観客から注目を浴びる以上、現代のピアニストにはセルフプロデュースも必要不可欠な要素になってくる」というところ。本当に筆者は物事を突き詰めてやり抜いている。


凡人にも「音楽家になろうが、何の職業に就こうが、生きることに対しての強い信念を持って歩むべき」「皆が夢を必ずもてとは思わない。でも、自分の目の前にあることを突き詰めてやり抜くことは誰にでもできるはず」のあたりは心に響く…何もできないアラフィフのオッサンも、諦めてはいけないな…