世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】原武史「思索の源泉としての鉄道」

今年50冊目読了。明治学院大学名誉教授の政治学者が、東日本大震災をきっかけに被災地の鉄道をめぐり、様々な思索をめぐらせる一冊。


図書館でたまたま手にしたので読んでみたが、いまいちだったなぁ。災害に関する考察がやや鉄道愛によりすぎている(冷静さを失っている)うえに、最後の妄想在来線特急に至っては本当に『痛い』。これは私小説レベルのような気がする。


もっとも、東日本大震災に関して「東日本大震災で大きな被害を受けたのは、新幹線の開業によって劣位に置かれた地域ばかりである」「東北新幹線は一つの権力に他ならない。鉄道的に見ると、東京を頂点に『東京>盛岡』『盛岡>宮古』『宮古>小本』『小本>田野畑』という権力関係が見てとれる。岩手県内に限ってもそうなのだから、東北は一つではない。ましてや、日本が一つであるわけはない」という分析はさすがと感じる。


また、「災害で鉄道が運休した場合、時間がたてばたつほど復旧のための協議会とか第三者委員会とかができたりして、地元住民の間での足の引っ張り合いが始まり、復旧なんてできなくなる。被災地の鉄道が復旧するためにはまず一刻も早く一駅でも動かし、復旧の方針を鉄道会社が打ち出さないとダメなんだ」も、理解できる。


しかし、「たとえ鉄道が廃止されても、駅に愛着をもち、最後の列車が入線したときと同じ状態に駅を保とうとする住民の気持ちが変わることはない。ある一家がやむなく引っ越したとしても、誰かが彼らの気持ちを受け継いでゆくのだ。それは地域社会の究極のよりどころが鉄道であることを、住民自身がよくわかっているからではないか」のあたりからだいぶ怪しくなってくる。「鉄道が復旧するということは、単に駅と駅の間がつながることを意味しない。そうではなく、震災によって失われた公共圏が復活することを意味するのだ」は、確かに鉄道であればインパクトは大きいが、それ以外の道を選ばないといけないという運営側の事情を全く直視していないところはいかがなものか。「たとえBRTが鉄道と同じルートを走ろうが、バスである限り、移動する時間そのものを楽しむようには構造的にできていない」は、生活路線においては維持のほうが優先であるため、致し方ないと感じる。


無理矢理政治に結びつける「国内の移動はますます便利になる一方で、海外留学が減り、近隣諸国との政治的摩擦も増えつつある日本の現状を鑑みるならば、鉄道のあり方にも抜本的な見直しが必要なのではないか。東京を中心とした明治以来の鉄道の歩みそのものが問われている」の言説もちょっとどうかと思う。なんとなくで選ぶと外れ本を引く、という典型みたいな本の選び方をしてしまったなぁ。