世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】辻村深月「傲慢と善良」

今年49冊目読了。ベストセラー作家が、婚活という切り口によって人生そのものの本質、自分が判断して生きるという確信に迫る一冊。


畏敬する先達が薦めていたので読んでみたら、なるほど、これは凄まじい読み応え。これは本質を突いているなぁ。同じ光景が全く異なって見える第二部の展開もまた深くて面白かった。


ネタバレ回避は小説の場合いつものことであるが、気になったフレーズは非常に多い。


婚活については「婚活は仕事ではないし、休むことができる。しかし、休めるからこそ、やめられない。そして、休んでいても状況が変わらない以上、その苦しさはずっと続く」「相手のことを見ずに、あくまで自分の意に沿うものしか見ない恋は確かに『孤独』だ」「婚活で多くの相手を見続けた結果、相手を『人』として見られなくなっていく。条件のラベルをつけたリストの中から、設定や背景だけを抽出して、無遠慮に品定めするような目で相手を見ていることに自分で気づくと、息苦しくなった」「自分の一番高いパラメーターの数値ではなく、むしろ、一番低い数値から、相手を見る。婚活で、そういう人たちが結婚を決めていく」「婚活がうまくいかない理由を、本来は自分の長所であるはずの部分を相手が理解しないせいだと考えると、自分が傷つかなくてすむ」のあたりがパンチ力ある。


現代についての「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、自分がない、ということになってしまう。善良さと傲慢さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代」の分析や、自己評価・自己愛についての「みんな、自分のパラメーターの中のいい部分でしか勝負しないんだよ。自分の方が収入が低くても、外見が悪くても、相手より勝ってる部分にしか目が向かない。傲慢だけど、人ってそういうものじゃない?」「自己評価は低いくせに、自己愛が半端ない。諦めてるから何も言わないでって、ずっといろんなことから逃げてきたんだと思う」も非常に鋭い。


子を持つ親としては「苦労がないよう、よりよい道を。よかれと思っていたとしても、それは、支配ではないか」「親の望んできた『いい子』が、必ずしも人生を生きていく上で役に立つわけじゃない」「自分の子どものことを決めてやらなければ、動いてやらなければ、と思う親たちの思い込みもまた、彼らが真面目で善良だから起きるのかもしれない。子どもがいっぱしの社交性や社会性を獲得することをイメージできないのだ」「自分が世間知らずだから、娘もそうだと思ってしまう。世間知らずの狭い範囲の価値観と道徳で育てた娘もまた、母親と同じ世間知らずになるのは至極当然のことだ」は耳が痛い…


筆者が言いたいのは「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかっている人。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人。ビジョンのある人」「人生のビジョンは、自分で考えなければ、決して見えない。見えないままでも、親にお膳立てされたり、それがなくともただ流されるように日々を生きてしまうことはできるのだ」のあたりかなぁと感じる。これは重たい命題だな…


そして、「考え方がひとつ変わると、見える景色は百八十度変わる」は本当にそのとおり。こんな教訓を、小説を通じて感じられるのが非常に秀逸だと思う。