世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】伊坂幸太郎「首折り男のための協奏曲」

今年100冊目読了。ベストセラー作家が、いくつかの短編をときに交差させ、ときにすれ違わせしつつ、不思議な世界に迷い込ませる一冊。


畏敬する先達に薦められて読んでみたが、なるほどこれは面白い。なんだか独特な世界観なのがまたズブズブと嵌まり込む感じの味わい。


ネタバレ回避で、気になったフレーズを抜き出してみる。


普遍的なこととして「嫌なことから逃げ回っていても、解決しないんだからね」「東京から大阪に向かわねばならぬ人間は、新幹線が運行停止になろうと、飛行機が飛び立てなくとも、車が壊れようとも、どうにかして向かうものだ。経路や手段が変わっても、起きるべきことは起きる」「驕れるもの得意分野に隙あり」「人間の身体は上から下へ行くほど、原始的になっていく」のあたりは面白い。


攻撃性について「熱狂こそが、攻撃性を生み出す。そして一番、熱狂を生み出すために簡単なのは、敵を作ることだ。俺たちはこのままではやばいぜ、このままだとやられてしまうぞ、と恐怖をあおる。怒りは一過性だが、恐怖は継続する。恐怖に立ち向かうために、熱狂が生まれる。さらに言えば、敵自体はいなくたもいいんだ。架空の敵を用意して、旗を振れば、理性がラッパを鳴らす」というあたりは、ウクライナ侵攻が継続中の2022年には考えさせられる…
さらに「攻撃性を抑えようとすればするほど厄介になる。本能を抑制しようとすれば、結局、本能は発散先を見つけるために、ハードルを下げる」「ルールのある中で、勝った負けたとムキになるのは、攻撃性の行き場としては正しい。健全な青少年の育成のために、スポーツを推奨するのはあながち間違っていない。ただ、スポーツってのは、不得意な人間はやりたがらない。余計に劣等感を覚えることもある」のあたりも納得だ。


なぜ、人間は幸運を期待するのか。「人間の原始的な欲求には『幸運を望む心』があるのだ、と常々感じていた。『当たりくじを引き当てた快感』を求める本能だ。ずっと昔、狩りの最中に、獲物を仕留めた時の達成感から、根付いているのかもしれない」は、ひとつの回答なのかもしれない。


生きるにあたっては「戦争や事件や事故や病気は絶えずどこかにあって、泣いている親たち、悲しんでいる子供たち、そういった人でたぶん世の中は溢れているが、僕たちは自分の時間を、自分の人生を、自分の仕事をちゃんとやることしかできないような気がする」のような諦念も、どこかで必要なんだろうな。