世界遺産マイスター/国宝の伝道師Kの「地球に感謝!」

世界遺産検定マイスター、国宝の伝道師保有の読書好き。書籍、世界遺産、国宝という切り口でご案内します。最近は「仕事の心理学」として、様々な事象を心理学的見地から考察しています。

【読了】鈴木光司「楽園」

今年22冊目読了。「リング」「らせん」でホラーイメージの強い筆者が、初期に書いたファンタジー小説


毎度の三谷宏治お薦めで読んでみた。確かに、3つの時も場所も超えた世代に交錯する壮大なストーリーがよくできている。ただ、最初の2つはいいが、最後はやや陳腐に感じられたな…神話、楽園、砂漠という3つのプロットで、それぞれに展開される物語がうっすらと繋がる様はさすがだが。


小説はネタバレ回避をしたいので、気になったフレーズを。

 


人間の持つ本能としては「本能的な不安感は生命の危険を警告していたのだ」「理解を超えた存在を前にすると人間は畏怖の念と共に妙な苛立ちを覚えるものだ」「人間はわからない。ちょっとしたはずみで形作られていった妄想が、こうまで強く肉体を縛っていく」「自信がないから恐怖と言う感情は生まれるのだ」「掟は人間の本能のほとばしりを阻止するために存在するとは考えにくい。逆に、ぼやっとしたかたちで心の奥底にしまわれている生への衝動に、合致した、複数の人間たちの暗黙の合意として捉えたらどうだろうか」などが、心に残る。


生きるということについては、「旅が人生を決定するというよりも、その人間の人生に対する姿勢が旅のありかたを決めてしまう」「人間は意図してこの世に生まれてくるわけではない。必ず、受動的に生まされる存在である。連綿と続く生命の環…、人間は、その環から自由になることはできない。本人が意識するしないに係わらず、超過去からの記憶をとどめた細胞は複雑に絡まりあって主人の肉体を呪縛する」「人はそれぞれ忘れられない光景を持っている。他の人間にとってはどうってことのない風景であっても、本人には人生をも左右しかねないほどの影響を与えてしまう」などが非常に感慨深い。


全体を通して「無意味な繰り返しでも、たとえ無意味な繰り返しでも、…外に出て、…生きる、意味は、…ある!」「この世界は謎に満ちている。仕組みを明らかにすることなど永遠にできそうもない。ただ、格闘することに意味があるのかもしれない」「戦え!まずもって、おのれを取り巻くすべてと戦え!」が、教訓として残るように感じる。