今年72冊目読了。お茶の水女子大学名誉博士の生命科学者にして歌人であり、原因不明の難病に苦しみ続けた著者が、般若心経を科学的解釈で美しい現代語に心訳し、堀文子の挿絵とともにいのちの意味に迫る一冊。
端的にいうと「般若心経の現代訳」なのだが、心の真理、世の真理に迫る感覚は独特なものがある。
「もし あなたが 目も見えず 耳も聞こえず 味わうこともできず 触覚もなかったら あなたは 自分の存在を どのように感じるでしょうか これが『空』の感覚です」
「変化しない実体というものはありません 実体がないからこそ 形をつくれるのです 実体がなくて 変化するからこそ 物質であることができるのです」
「私たちが あらゆるものを 『空』とするために 削り取り 削り取ったことさえも削り取るとき 私たちは深い理性をもち 『空』なる知恵を身につけたものになれるのです」
「行くものよ 行くものよ 彼岸に行くものよ さとりよ 幸あれ」
…など、心に染みるようで、いまいち掴み切れていないのは、自分の感覚がまだまだ深まっていないからだろう。読み手の苦悩、懊悩、絶望と、そこに向き合う勇気が、この本の本当の意味を浮かび上がらせるカギになると感じる。
「宇宙の真実に目覚めた人は、物事に執着するということがなくなり、何事も淡々と受け容れることができるようになります」というあとがきの言葉を引くまでもなく、ほんとうに「目覚めた」世界というものを垣間見ることができる。
挿絵も含め、頭で追うのではなく、心で感じ取る一冊。自分は、まだまだ心の陶冶が足りない(いや、そもそも足りないという感覚の時点でズレているようにも感じる)ということだろう。本当の苦境の時にこそ、読むべき一冊なのかもしれない。